【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#162]123 繋がり
ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~
123 繋がり
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。栗色の髪の長身の青年
・ゴードン…前・魔王討伐隊の武器を作った鍛冶師。銀鼠色の髪を束ねた壮年のドワーフ
・ニール(ニコラス)…王族の一人で、前『英雄』クリストファーの息子。金髪翠眼の少年
・マーニャ(マーガレット)…教会の魔法使いで、先代の神巫女。金髪に紫の瞳を持つ美女
・ジャスパー(メルヴィン)…教会の魔法使い。黒髪長身のメルヴィンの姿に化けている。
・マコト…神の国(日本)から召喚された『勇者』。黒髪の中性的な青年
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。リリアンに執心している。栗毛短髪の青年
・アラン…ニールの元教育係の騎士。灰髪に紺の瞳の青年
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「以前より筋肉が付いただけじゃねえな。腕の振り方、肩の入れ方も変わってるだろう。何かあったのか?」
「ああ、新しい師匠がついたから、それで……って、いてっ」
ドワーフのゴードンさんの節くれだった親指で腕を押され、デニスさんは顔を歪めて声を上げた。
「アレ、俺も痛かったよ。デニスさんでもあんなに痛がるんだなぁ」
そう私に小声で耳打ちしたニールも、先ほど同じ事をされて涙目になったばかりだ。
ドワーフの工房に並ぶ物は、戦士用の武器防具が多い。
魔法使い用の杖などの魔法具はただ形を作るだけでなく、魔力の通りやすい細工が必要になるので、ドワーフたちの得意な加工とは少し違ってくる。
が、得意ではないというだけで作る事ができないわけではない。
ゴードンさんの工房の片隅には、多くはないが魔法使い用の杖も並べられている。マーニャさんとジャスパーさんは、それらを興味深く眺めながら、何かを話し合っているようだ。
マコトさんは『神の国』から来ている。彼の国では魔獣を相手に武器をふるう機会はないと聞いていたので、こういった工房にはあまり興味がないんじゃないかと思っていた。
でも機会がないだけで、興味は非常にあるようだ。シアさんを捕まえてずらりと並んだ武器の説明を、嬉しそうに聞いている。
アランさんはそんな二人の少し後ろで、オマケのような顔をして覗き込みながらも、シアさんの解説に耳をそばだてている。
半年以上ぶりに、しかも大所帯で訪ねた私たちを、ゴードンさんは相変わらずのぶっきらぼうな態度で迎えた。
もちろん手土産の酒と竜肉は忘れずに持参している。土産をバッグから取り出すと、ゴードンさんの強面が破顔するのも相変わらずだ。
ウォレス様が一行を出奔した際に、彼の持っていた先代英雄クリストファーの剣がニールの物になった。
持ち主が変わったからと言って使えないわけではない。
でもこの『英雄の剣』はゴードンさんが作った武器だ。当然この剣は元の持ち主に合わせた調整をされている。いくらクリスとニールが親子で血の繋がりがあろうとも、本人ではない。
この剣の再調整をお願いする為に、ここドワーフの国を訪れた。
早速ゴードンさんの前に座らされたニールは、まだ肌寒い時期だというのに上半身はシャツ1枚に剥かれ、散々筋肉の付き方を調べられたのだ。
今は、その次にとデニスさんが、ああしてゴードンさんの取り調べを受けている。
ひとしきりデニスさんの腕を捻り回した後で、ゴードンさんは黒髪の青年に向かって声をかけた。
「次はお前だ」
ジャスパーさんは顔だけ少しこちらに向けて、無表情で答えた。
「俺は魔法使いだから、必要ない」
「使っているのが魔法使いだろうと、お前が今持っているその杖は俺の作った物で、元はメルヴィンの物だ。でもお前はメルヴィンじゃないだろう?」
ゴードンさんの言葉に少しだけ首を傾げると、ジャスパーさんは勧められた椅子に腰掛ける。
「何故わかった?」
そう尋ねた。
今のジャスパーさんは神秘魔法でメルヴィンの姿に化けている。この魔法は普通の人には容易く見破れるものではないはずだ。
「……確かにドワーフは他の種族に比べたら魔力は低い。でも長年やってりゃあ、商売もんのことくらいはわかるようになるさ。お前はこの杖で魔法を使っているだろう? まずメルヴィンとは杖を持つ位置が違う。僅かだが手の角度も違う。それと魔力の出力の癖も違うな。まあ、これについてはなんとなくだがな」
ゴードンさんの言葉を聞いてジャスパーさんは、じっと自分の右の手を開いて眺めた。
「デニスみたいに鍛え方で癖が変わったのと、使い手が違ったのではわけがちがう。流石にわかるさ。それにな」
そう言ってゴードンさんは、少し声を落として眉を寄せた。
「もうずっとこの杖にはあいつの魔力が籠められていない」
「魔力?」
「ああそうだ。俺が作った『英雄』たちの武器は、あいつら3人の魔力と呼応し合うように作ってある」
「なるほど……」
ジャスパーさんが杖を持ち直しその手に魔力を籠めると、杖は魔法を発動するときのように少し光った。でも彼が力を弱めると、光は何事もなかったように散って落ちた。
「本物とは魔力が違うからな」
さあとゴードンさんが促すと、ジャスパーさんは大人しく杖と右手を差し出した。
その話を横で聞いていたニールは不思議そうに自分の剣を眺めると、ジャスパーさんと同じように剣を持ち直して魔力を籠める。その光は先ほどと違い、ニールが力を弱めても落ちる事もなく、剣に染み込むようにゆっくりと消えていった。
「その剣はもうお前の魔力用に調整してあるぞ」
目を丸くさせているニールに、ゴードンさんは言葉だけを投げた。
「うわー、すっげえ。あともう一つはアシュリー様の剣だよな。どこにあるんだろう?」
「ねえよ」
マコトさんに武器の話を聞かせていたはずのシアさんが、いつの間にこちらを見ている。
「アッシュの剣は、あいつと一緒に巨大な魔獣に飲み込まれちまった」
シアさんは、ほんの一瞬、視線だけを私に向けた。
「だから、もう無い」
そう言うと、また武器棚の方を向き直してこちらに背を向けた。
――今のは、なんだろう?
なんだかわざわざ私に聞かせたような……
そういえば。
ギヴリスに出会った時、私の剣は――
「リリアン? どうしたんだ?」
ニールの言葉でハッと気がついた。
「ああ、ごめん。ちょっと思い出し事をしていて」
でも何を思い出しかけたか、もう忘れてしまった。
「ったく、おっさんはデリカシーがないよな」
反対側から、デニスさんがこそりと私に小声で言った。
ああそうか。前世の私が死んだ時の話をしたから、シアさんは私の事を気にしてこちらを見てたのか。
デニスさんは、あの話で私が悲しい事を思い出したと思って、気遣ってくれている。
「気にしてませんよ」
そう言って笑うと、デニスさんはほっと息を吐いた。
* * *
結局、皆の武器をゴードンさんに一度預ける事になった。
いつぞやのように翌朝工房を訪ねると、眠そうな目のゴードンさんに出迎えられた。やはり徹夜だったらしい。
相変わらずの腕前で、皆の武器は一番使いやすいように調整され、それぞれの手にしっくりくる様になっていた。
別れの時、ゴードンさんが声をかけてきた。
「なあ、お嬢ちゃん」
「はい?」
皆は気づかずに先に工房を出て行き、私だけ足が止まる。
「お前は、今は幸せかい」
「え?」
思いがけぬ事を訊かれて、言葉が止まった。
「俺の知っていたアイツはどこか寂しそうだった」
アイツ…… ゴードンさんがそう言うのはきっと……
「俺の作った武器を使うなら、今度こそ幸せになってほしいんだよ」
『今度こそ』と、ゴードンさんは言った。
「……また、お酒を持ってきます」
「ああ、待ってるぞ」
そう言って、少し寂しそうに笑って手を振るゴードンさんに、黙ってお辞儀をした。
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(メモ)
ゴードン(#11、#45)
巨大な魔獣(Ep.17)
(#8)
(Ep.5)
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