詩 玩具
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それは、こうするしかなかった過去の話であり、今の話でもあるのかもしれない。この部屋には神々の名が刻まれたエロースが立てかけられている、ということ以外には特段変わったところがない。部屋に住む男は自称会社員で賃貸借契約を結んでいた、ことになっている。調べてみると大家は家賃を最初しか受け取ってはいなく半年も放置していたというのだから分からないことも多い。ワンルームのこの部屋で仮装パーティが行われ忌まわしき誘拐事件が行われていたとは想像しがたい。私はエロースを見つめながら捜査を行う。神々の名はかつて三世紀ほども歴史の影に隠されていた神話に基づいている。この事件に関わることで疲労感を覚えるしかない。私は神など信じてはいなく、神は存在すらしていないから神なのだと思っている。男の犯行は突発的であった。供述によると、パーティーの日に神々と悪霊が訪れて境界が揺れ広がるため、何人かの選ばれし者たちと仮装し身を隠したかったようだ。私はいつからかエロースに見つめられていた。有名な古代の発明であるエロースがこの事件の鍵を握ると確信していた。棒状だった物体から丸みを帯びた人形の形に変わって、徐々に羽根のようなものが生えてきているのは気のせいだろうか。そもそも、私は私でありいつからこの場所で捜査をしているのだろうか。私は、自称会社員になるのだろうか。エロースには神々の名前が書かれている。三世紀ほども隠蔽されていた神話のことは聞いたことがないのに、どうして知っているのだろうか。もうずっと、エロースに見つめられている。エロースは私を模した人形に変化し服装が少しずつ変容していく。携帯電話が鳴っている。私はこの部屋に立てかけられて隠蔽されている。
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