詩 朝起きたら三十分後に講義が始まるんだけどいっつも起きているのが大変で困っている私
朝起きたら三十分後に講義が始まるんだけどいっつも起きているのが大変で困っている私
朝の六時半に起きて、リビングで寝ていたのだと気付く。ニャと合図すると春人が配給の缶詰めを持ってきてくれる。七時には私も春人も大学の講義を受けなくてはならない。私も春人も頭が良いと言われているエリートなのでサボることは許されない。私の部屋に階段と呼ばれる上階にあがれるものをリズミカルにジャンプして進む。春人に言わせたらゲームキャラクターのスーパーマリオに似ているようだ。春人も私とは違い気怠げに後を追う。どちらにしろ私たちはスーパーマリオだ。
生物学こそこの国で最も研究され尽くした分野で、私たちは将来的に優秀な研究者として嘱望されている。僕らは感情を持つ社会的な動物なので、交友や恋愛、趣味のダンスに忙しい。部屋でパソコンを立ち上げ大学のシステムに移行させログインする。これはもうずっと前に開発された会議システムンという対面ミーティングができるソフトだ。大学に行かなくていいから便利だ。パソコンの前で眠っているといつの間にか講義が始まっていた。この生物歴史学の講義は最後に出欠を取るので助かった。私は猿を専門に研究している。彼らの歴史は面白い。アフリカで生まれ地球上に広がり、狩猟や農耕を行う。人間社会を形成しテクノロジーを生んだ。中でも、人工知能、ドローン、レーダー、会議システムン、経済戦争、爆弾、長距離弾道ミサイル、核兵器、新型ウイルスと多岐に渡っている。私は二十世紀初頭までの彼らが我々にも共感ができて好きだ。それからの彼らは自らの利のために、健全に生きるための大切なものを失っていく。最後まで生き残った人間は自分達の生きた世界を夢だと言ったのだ、と手元の資料には書かれている。それは、私の考え方を大きく裏切るもので、初めから夢だと思えたら失うものなど何もないと思う。その証言は何故か私の中で生き続けている。私はヒトの、人間の強さよりも弱さを研究している。特に、二十一世紀に変革が起こる。特に会議システムンというものが人間社会の体温のようなものを奪い、本質にある構造的なものを弱体化させたということに興味を持っている。私たちネコ科も会議システムンを使っているから同じ失敗はしたくなかった。マスクをしたヒトのカラー写真を見つめながら、マスクとはなんなのだろう、何を意味するのだろうと気になった。顔を隠したりコンプレックスを解消したりできたらいいなと思い、うつらうつらと目を閉じる。