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「泣き叫ぶ女」の呪いと、宙ぶらりんなその後


論理的な対話を否定されて

初めての喧嘩の日付を、今でも覚えています。
節分パーティをした翌日、2月4日のことでした。

私にとっても元恋人であるAにとっても人と交際することは初めてで、恋人と喧嘩するなんて想像もしていなかった。
でも実際に意見のすれ違いは発生し、話し合いたいということになりました。

私は丁寧に、私がAに反対する理由を説明しました。
いつもの私らしく落ち着いて、論理的に。

Aは、しばらくフリーズしていました。
そして口を開くと、

「待って、そんなにガチガチに言われたら分からんわ。」

「そういう言い方で自分を守ろうとしたら話せるもんも話せんよ。」

と言い出しました。

私はどうするのが正解だったのでしょうか。
当時の私は、泣きました。
自分の感情を掘り下げて、引っ張り出して、ぶちまけて。

Aはそれで満足したようで、対話に参加してくれました。

4ヶ月ほどして、Aとは別れました。
その4ヶ月の間に数回喧嘩をして、そのたびに私は大泣きしました。

私の閉じ込められた、女性蔑視的なステレオタイプ

そして私は、そのあと数人と交際しました。
すれ違いはあったけど、大泣きすることはありませんでした。
その恋人たちは、私が落ち着いて合理的に説明することを止めなかったからです。

私は、こんなに話が通じる人間がいることに驚きました。
そして、Aがおかしかったのだと、そのときようやく気づいたのです。

私はそもそも非常に論理的な人間です。
ディベートの経験がありますし、哲学を学んでいます。
そんな私が丁寧に対話しようとしているのに、Aは私を感情の方へ引きずり込んだ。
もしかしたら、すごく私にとって辛いことをされたのかもしれないと思いました。

そこでふと、Aのご家族のことを思い出しました。

Aのお父様は単身赴任をされており、年に数度帰ってきます。
そしてそのたびに、Aのご両親は大喧嘩をする。
お母様の方が感情的で必ずしも論理的でない発言をし、お父様がそれに対して論理でねじ伏せようとするというのがいつもの構図だったようです。

Aは、この図式に私とAの関係を当てはめたかったのではないでしょうか。
つまり、女は感情的に騒ぎ、男は理性的にそれをなだめるという構図。

これは典型的な「女は感情、男は理性」というステレオタイプに基づいています。
私はそこから逃れたかったし、そんなもの否定したかった。
だから落ち着いて、筋道を立てて話そうとしました。
でも、Aは逆に私をそこに閉じ込めようとしていたのです。

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宙ぶらりんな憎しみ

別れて2年が経ちますが、それに気づいてからますますAのことを憎むようになりました。
何かAに不幸が降りかかっていないかと、AのTwitter投稿をチェックしていると、

「自分は女性蔑視的な価値観を持っているのかもしれない」

というツイートがありました。

思わず、非表示にしていたAのLINEを検索していました。

あの喧嘩のやり方は、私を女性蔑視的なステレオタイプに当てはめる行為だった。
それはご両親から引き継いだ呪いだからやめた方がいいと思う。
そんなメッセージを送りました。

返信は思ったよりも早く来ました。

「きっとそう、呪いは受け止めていかないとね」

このメッセージを送ってよかったとも、送らなければよかったとも思います。
そんなに素直に認められたら、私の怒りと憎しみはどこに持っていけばいいのか、とも。

宙ぶらりんな気持ちのまま、私は今の恋人と対話します。
それはもう喧嘩ではない。
どちらがひどく感情的になることなく、相手の話を聞き入れるかたち。

少なくとも、そのありがたみを感じられるようになるにはAの存在が悪例として必要だったのだろうな、と思います。

最後までお読みくださりありがとうございます。

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江田 都
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