日本の子どもたちの学力は本当に低いのか?
日本の子どもたちの学力を国際比較しよう。TIMSS(ティムズ 国際数学・理科教育動向調査)では「学校で習った内容をきちんと覚えていて使えるか」を測っている。一方、OECDが主体となって実施しているPISAの科目は数学・理科・読解がある。これは「学校で習った基礎的な内容を新しい目的に対して創造的に使えるか」を測っている。
TIMSSの2015年の日本の中学二年生の順位は、数学で5位、アメリカは11位、理科では日本は2位、アメリカは11位。TIMSSのランキングでは、日本を含む東アジア諸国が上位を独占していて、欧米諸国より高い水準にある。
では、日本の子どもたちは身につけた知識を創造的に使うことができるのか。「日本の教育は創造性を育んでいない」としばしば言われる。実際、この仮定の下に教育改革が行われてきたのではないか。
1990年代には「新しい学力観」が、2000年代には「ゆとり教育」になった。しかし、2010年代からは授業時間を再び増やし、現在の授業時間数は、「ゆとり」以前に戻り、新たに「アクティブ・ラーニング」が導入された。この流れの礎にあるのは「これまでの日本の学校教育は創造性を育んでいない」という前提だ。実際、多くの大学生は「日本の教育は創造性を育んでいない」と書いてくる。
この創造性を計測しようという試みがある。PISAでは知識の創造的利用を計測しようとしている。2018年のPISAには79の国と地域が参加した。日本は数学で6位、アメリカは37位、2003年に3科目中2科目で世界一だったフィンランドは、16位。理科は、日本は5位、アメリカは18位、フィンランドは6位。読解力は日本が15位、アメリカ13位、フィンランドが7位。日本は、その知識を創造的に使う能力を身につけさせることにも成功していると言える。
現実的な場面での創造性もPISAは計測している。2012年に「創造的問題解決」という科目のテストを実施した。OECDは「明瞭な答えのない問題に対して、自ら行為することを通じて解決策を導く能力」が大事だと考えている。このテストでは44か国中、日本は3位だった。
2015年にOECDは、「協同的問題解決」のテストを行った。解答者自身の他に複数のメンバーが存在する設定で、回答者は他のメンバーたちとチャット上で会話しながら、チームで問題解決に取り組むもの。このテストで日本は2位だった。
日本の子どもたちは持っている知識を生きていくために応用する能力が高いと言える。
学力格差に関して言えば、2018年のPISAにおいて、基本的な事項を理解している子どもの割合ランキングで、日本の順位は6位で、平均点ランキングの順位と同じ。日本は平均点が高いだけでなく、基本的な事項を理解している子どもの割合も高い。
こうした子どもたちの成績だけでなく、家庭環境についても調べていて、具体的に、両親の職業・学歴、家庭に何があるか(例えば子ども専用の机、パソコン、どのような種類の書籍の保有など)を調べて社会階層を表す指標を作成している。社会階層は子どもたちの成績に少なからず影響を与えており、どの国でも社会階層の成績への影響はゼロより大きい。1位のアイスランドは子どもたちの成績の4.9%は社会階層で説明される。日本は社会階層への成績への影響が10.1%で、OECDの平均は12.1%と比べて大差はない。
日本の大学生の勉強時間数は、たとえばアメリカと比較しても、少ないのは事実だ。
しかし、OECDが大人を対象とした調査も行っていて、PIAACと呼ばれている。2000年にPISAに参加した日本の子どもたちを対象に、その子どもたちが26歳から31歳になったときに調査した。その結果、2000年のPISAに参加した日本の子どもたちは、15歳時点で世界トップレベルだっただけでなく、20代後半から30代前半になったときにも世界トップレベルを保っていた。
また、PISAのデータを用いて経時的変化を見れば、日本の成績はこの18年間で上がったり下がったりしており、一貫して低下しているような傾向は認められない。「ゆとり教育」は学力低下を招いていなかった。
この20年間、教育政策や制度を改革してきたアメリカのPISAの成績は横ばい、オーストラリアは一貫して低下している。
教育政策や制度をいじり回すのは無益なのではないか。むしろ、大人の方にゆとりが必要で、教育や社会の複雑さに耐えることが、実は安定した教育政策のために必要なことかもしれない。
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