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#専門家が選ぶ新書3冊

 Twitter でバズったこのタグがとても興味深かった。

 さまざまな分野の研究者・マニア・専門家の推薦する新書がそれぞれ興味深い。自分の関心の薄い分野でも、書名をあげられれば興味が湧いてくる。

 ここでは、nasastar さんとハッシュタグを作ったぱうぜさんの思いについて紹介したい。

 まず nasastar さんは悲しい現実を話す。「『新書』ぐらいと言うが、新書すら読んだことのない大学一年生がほとんどだよ。」

 なるほど、他の方は本屋の新書コーナーをこう評する。

「専門家からすると新書は一般向けに平易に書かれたものというイメージかもしれませんが、実際、書店の新書コーナーを『難しい本が置いてあるところ』と認識している人はかなり多いと思います😇」

 その中には「トンデモ本」も含まれている。

 私たちは移動すれば書店が当たり前のようにあると思うかもしれないが、書店のない町村はけっこう存在する。存在しても「トンデモ本」でない新書は売れ筋ではないため見ることが少ない。

 ぱうぜさんはこう言う。
「なんで 専門家、とあえてつけてるかと言うと、単純に新書3冊選ぶと学生の三分の一くらいは最低1冊「トンデモ本」入れちゃいます。それも含めた課題趣旨でした。選書眼問われるので、我こそはという方どうぞということでもあります。 #専門家が選ぶ新書3冊

 ところが「トンデモ本」も使い方によっては効果がある。ぱうぜさんはご自身の授業での経験について触れます。

「なんで 専門家、とあえてつけてるかと言うと、単純に新書3冊選ぶと学生の三分の一くらいは最低1冊『トンデモ本』入れちゃいます。それも含めた課題趣旨でした。選書眼問われるので、我こそはという方どうぞということでもあります。 #専門家が選ぶ新書3冊

 「トンデモ本」の危険性について、Takuya ONODERA さんはこう言う。
「『まずは信頼できる基本文献を3冊読んでから』というのは、私もゼミでしょっちゅう言っています。これをつねに心がけていないと、『最初の一冊』に引きずられることはどうにも避けがたく、しかもその『最初の一冊』が非常に問題のある文献だった場合は、取り返しがつかない。」

 これだけ新書の歴史があるのだから、中には「古典」となった新書もあります。例えば、丸山眞男の「日本の思想」、中尾佐助の「栽培植物と農耕の起源」、梅棹忠夫の「知的生産の技術」など。こういったその分野で「定番中の定番」をまず読んでからというわけです。

 その「トンデモ本」を読者がどう捉えるのか。ぱうぜさんは読者にトンデモ本をトンデモ本と見抜く力を求めます。

「ただ、トンデモ本を選んだ上で他の2冊と比較の上でおかしい、と批評するレポートにはかなり高得点つけました。 #専門家が選ぶ新書3冊  念のため。」

 古くから「ウソをウソと見抜けなければ、インターネットを使うのはむずかしい」と言います。

 しかし「トンデモ新書」は巷に溢れています。

「先ほど改めて新書コーナーに立ち寄ってみたが、トンデモ系が目立つ恐ろしい場所になっていた。きちんとしたガイドが必要。」

「経緯から文系によりがちになってるので医クラはじめ理系の専門家もぜひやってほしいなぁ。医学、栄養学あたりはトンデモ新書いっぱいあるから。」

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 この新書を用いた基礎演習はどのように行われ、どのような目的を持っているのでしょうか。

 大学で教えているnasastar さんはこう言います。

「僕のところの基礎ゼミ、僕が担当していたころは全8回で6冊だった。毎回一つのテーマ、2冊の課題図書のどちらか読んできて、2人が報告。報告時間は概ね20分強ぐらい。というトレーニングからスタート。学部一年の春の話」

「本を読むスピード、これは高校時代までにはなかなか上げられないので、大学入ってから最優先事項になると考えています。ええ、大量に読んで、大量に課題をこなしつつ、処理スピードを上げていく感じ。日本語もそしてそれ以外の言語でも同様。」

 隔週の演習と思いますが、他の勉強もある学生にとって、毎回レポート担当なら厳しいと思います。そうでなければ、出席して適当に発言してお茶を濁して単位をもらうことも可能でしょう。しかし、それに本気で取り組んだら……。

 具体的に新書を扱った演習を行った末に学生たちはどう育つのでしょうか。

「新書を数時間で読んで、それを10分ぐらいで『掻い摘まんで』説明する。これがごくごく当たり前にできたら、大学初年次でできたら、無茶苦茶優秀です。はい。断言できます。いきなりは殆ど無理ですね。」

「10分を3分に、30分に変化させたり、聴衆に対して、目的によって説明の仕方を変化できるようになったら… これ人文社会科学系の大学院生でこれができたら、ほぼ就職の心配がないレベルで優秀だと思っています。それぐらい難しい」

「新書を何時間かで読めるようにならんと詰む。最初はキツい。当たり前。トレーニングだから。でも、まあどうにかなるよ。それクリアすると次は英語も。基本は要約から。読んで理解してまとめる。これの繰り返し。それを踏まえてトピックごとに議論」

 方法は簡単です。数時間で新書を読み数十分で要約できるようにすること。その報告時間を長短自在にし、しかも聴衆の理解度に合わせる。

 さらにこれを、毎回報告者になったつもりで課題を読んで要約する作業を続けたら、興味深い結果になりそうです。

「最初はできないと断言したのは、そういうトレーニングがしてるから。で、学部後半だと英語の専門書読んで議論というレベルまで持ってきてる。だから学部教育ってちゃんと頑張れば、ちゃんと成果がついてくるよ。キツいかもしれないけど頑張りな。僕らみんなそうやって育ってきたんだから、信用してよ」

 そして最後は……。

「だって最後は学部生が僕に教えるところまで行くからね。僕が知らないデータを、概念を調べてきて説明する。それらを踏まえリサーチ組み立て、実施して成果を教えてくれる。そこまで行くんだからね。」

 ここで紹介したnasastar さんとぱうぜさんの学生の育て方はとても興味深い。過去に行った演習が8回×6冊(さらに×2?)。回数から言って隔週で半期のゼミ。通年なら12(24)冊、それを四年間なら48(96)冊。学部後半は英語の図書を購読となるが、これも日本語の新書でやってみてもいいでしょう。

 一週間に2冊ほどのペースなら、一年で100冊ちょっと。ただ、毎回ランダムに分野を選ぶのではなく、短期集中で同じようなテーマを扱った新書を複数冊読み込むのがいいでしょう。

 面白いので皆さんでやりませんか? 私はやってみたい。要約をネットにアップすると著作権侵害の恐れが出てきますので、多少ぼかしたり、核心に触れなかったりします。私がやる場合、レポートはここに載せましょう。

 お忙しいみなさんの読書生活の足しになっていただければいいと思います。

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