アクティブ・ラーニング導入のための課題
アクティブ・ラーニング導入までの過程において、もう一つの特徴はグローバル化に象徴される大規模な社会変動が強調されている点である。
2018年版の学習指導要領が「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性」という資質・能力の三つの柱を採用していること自体、コンピテンシー(資質・能力)を軸とした教育改革の国際的動向と歩調を合わせたものと言える。すなわち、「コンテンツからコンピテンシー」または「ティーチングからラーニング」へのシフトである。
この能力観に大きな栄養を与えているのは、OECDのプロジェクトDeSeCoで合意された「キー・コンピテンシー」である。内容は、
カテゴリー1)道具(言語・シンボル・テキスト・知識や情報・テクノロジー)を相互作用的に用いる
カテゴリー2)異質な人々からなる集団で相互に渡り合える。
カテゴリー3)自律的に行動する
学習指導要領のベースとなった2016年の中教審答申を読むと、幅広い提案がなされているだけでなく、「国際性豊かな日本人の育成」という文言を使っていて、教育の国際化に舵を切った1974年の中教審答申を彷彿とさせる。21世紀のは世界の流れに乗り遅れまいとする書き手側の危機感が投影されたトーンのように思える。
しかし実際に教室でアクティブ・ラーニングが成立するには、教師と生徒双方の主体的条件についても考えてみる必要がある。
例えば、準備の問題で、たとえ子どもたちがアクティブ・ラーニングの意義を理解したとしても、知識注入型授業で培われてきた受け身の行動様式を主体的なものに変えるのは、そう簡単ではない。
そこでは、教室の中に発表・表現することを励ますような雰囲気が醸成されていく必要がある。よく発言する生徒が「目立ちたがり屋」だと批判を受けるような雰囲気の中では、アクティブ・ラーニングは成立しない。教師の側でもそのことを意識して、子どもたちが発言しやすい関係を作っていく必要がある。
この「学び方改革」を実効性あるものにするには大きなハードルがいくつもある。これまでの教育に関する歴史的な経緯、環境条件、人々の意識など様々な面に及んでいるからだ。しかも長い間教授定型になってきた知識注入型授業スタイルという大きな岩を動かす仕事でもあり、道具もなしにそれに立ち向かうのは乱暴である。
まず学びのプロセスをデザインし、効果的に運営できるように、教師側及び生徒側の条件を整える必要がある。条件整備を怠ったまま、結果だけを求めるのは、道具もなしに素手で大きな岩を動かせというの等しい。その重要なツールであるアクティビティ(学習技法)こそ、アクティブ・ラーニングの導入に決定的に重要である。