プライドの仲間を再確認、それぞれの船出『ライオンの隠れ家』がすごくよかった最終回
『ライオンの隠れ家』最終回(第11話)
言葉で表すのが難しいけど、すごくよかった。
サスペンス要素もあったけれど、やはり兄弟・家族・大切な人たちとのヒューマンドラマとして十分見ごたえのある作品でした。
10話のラストで、兄である洸人(柳楽優弥さん)が姿を消してしまいます。洸人を探しに出た美路人(坂東龍汰さん)は姉の愛生(尾野真千子さん)に聞きます。
「僕がめんどくさいからいなくなりましたか?」
「お兄ちゃんは僕を嫌いになりました?」
愛生は「そんなことない。洸人はあんたのこと一番に考えているから」と諭すけれど、「じゃあなんで?」と理解が追い付かない美路人。
一方、一人で東京をさまよい歩く洸人。子供の頃からいろんなことを犠牲にして、兄としてずっと自閉スペクトラム症の美路人の面倒を見てきた過去を振り返る。
「これまでの人生、何かを選択し、決断する時には必ず美路人の存在があった」「美路人と自分を分けてみたとき、僕には…いったい何が残っているのだろう」
その時に流れる、自問自答する洸人(柳楽優弥さん)のささやくような声(ナレーション)がまた美しく、洸人の巡る思いがひしひしと伝わってきました。
洸人は東京で記者の工藤(桜井ユキさん)と会うのですが、「むかし通っていた大学(中退した)にいつの間にか来ていた」と迷いを含めながら話す洸人に、工藤が「やり残したことがあるなら、挑戦してみたらいいんじゃないですか?」「新しいことを始めるのに“今更”ってないでしょ」と軽い口調で背中を押すシーン、洸人にとって重要な決断をするための再会だったとも言えますね。
洸人はふらっと帰ってきたものの、洸人のことが心配で心配でたまらない美路人。その表情と言葉が見ていてとても愛おしくなります。
美路人が描いた1000人画廊の絵が完成したということで、みんなで見に行きますが、どこか引っかかっていた美路人は何かを思い、「違います」と言いだし、帰ってしまう。
どことなくぎこちない洸人と美路人。洸人にも思うところがあり、美路人にも思うところがあり。それぞれが考える…。
夜、自宅で洸人が愛生に気持ちを打ち明けるシーン。それを仕切りを隔てた部屋のベッドで聞く美路人。
愛生は、洸人が不在にしていた間の美路人の様子を教えてくれ、「どれだけ近くにいても、お互いが何を思っているかなんてわかんないってことだよ」「思いは言葉にしてちゃんとぶつけないと」と、ここでも愛生に背中を押される洸人。
記者の工藤にしても、愛生にしても、彼女たちらしい見事なフォロー。かなり重要なキーパーソンでした。
洸人の同僚である貞本(岡崎体育さん)の結婚10周年パーティーに呼ばれた洸人たちですが、急きょスピーチを頼まれた洸人は貞本にお祝いと感謝の意を述べつつ、それに絡めてこの場を借りて美路人へ伝えたい思いを語ります。
みっくん(美路人)のことが大好きで、みっくんの描く絵も大好きで、何のとりえもない自分はみっくんの才能に嫉妬したこともあったけど、心から尊敬している、大変なこともどうにもできないこともみっくんのおかげで乗り越えることができた、弟はこの先もずっとずっと自慢の家族です、ありがとう。
その時のみっくんに語りかける洸人の優しい表情、それを聞いているみっくんの表情、素晴らしくて、なかなかこういう繊細な表情で表現できる役者さんってそういないんじゃないかなと思うくらいに本当に感動のシーンでした。また、言葉で伝えるって大事だな、ともしみじみ思えました…。
バックで流れる主題歌(Vaundyさんの曲)のスローなピアノバージョンが涙をそそるんですよね。
そして、後日洸人とライオンと美路人は再び1000人画廊の場所へ訪れます。
完成したように見えて、美路人にとってはまだ未完成だった「ライオンの絵」に筆を入れる美路人。描きこんだのはウミネコの絵。そして美路人に促され洸人とライオンも一緒にウミネコを描き込みます。
「海じゃなくてもウミネコはウミネコです。どこを飛ぶかはウミネコの自由です」「ウミネコだって違う景色みたいときあります」とみっくんは言います。
3人で完成させたライオンの絵、ウミネコが枠からはみ出して描かれているのが素敵でした。
洸人は、みっくんに再び言葉で伝えます。東京の大学で勉強しなおそうと思っていること、そのために家を出て一人で暮らそうと思っていること、
「みんなと離れて暮らすことになるけど、僕たちのプライドはずっとここにあるからね」「離れていても、ずっとプライドの仲間だよ」
「プライド」とは、ドラマの最初の方に出てきましたが、ライオンの習性をあらわす言葉。自閉スペクトラム症の美路人はもともとライオンが好きで、ライオンの習性を熱く語っていました。
※ライオンはプライドと呼ばれる群れを作って集団生活を送る。そして妊娠したメスライオンは一時的にプライドから離れて出産すると、子ライオンを連れて戻ってくる。そして、久しぶりに会う仲間との再会を喜び、子ライオンの誕生を歓迎し、仲間と協力して育てていくのだという。(webより)
「プライド」という言葉を受け、しばらく複雑な顔をしていた美路人も納得したのか、「はい。同じプライドの…仲間です」と兄の希望を受け入れる。
空が夕日に染まるとき、その会話中の長い間(ま)によって、お互いの深い気持ちがより伝わってきて、言葉を探しながら丁寧に対話をする二人の姿が心に残りました。場所は離れていても絆で結ばれている、そんなプライドの仲間なんですね。
日が沈みかけるとき、3人が描いた絵が完成して、その絵を見ながら洸人は質問します。
洸人「みっくん、おにいちゃんの(描いた)ウミネコ、へたくそかな」
美路人「はい、へたくそです」
と、秒で答えていたあたり、ちょっと笑えてほほえましかったです。
みっくんのピュアさが表れていて、それに対して洸人としても柳楽優弥さんとしてもついつい本当にほっこりとした気持ちで素直に笑える瞬間だったのかもしれませんね。素敵な笑顔でした。
3人で空を見上げるシーン。ここでは言葉もナレーションもなく、3人が何かを思っているような映像がしばらく(何秒間か)続きます。こういうのが印象深く記憶に残りますよね。下手に解説風のナレーションや心の声を入れないほうが効果的だったりします。
そのシーンがあってからの、今度はみっくんが自分の進路を具体的に考える番。
そして4月から「アートグループホーム・オービットハウス」で暮らすことを決心し、洸人にチラシを見せます。
チラシを見ながら洸人はおどろき「みっくん、できるの?」と聞くと、「チャレンジします。ウミネコです」と美路人は答えます。頼もしくなったみっくんを感慨深く見つめる洸人。
その直後に洸人とハイタッチするんですが、またもや秒で洸人からチラシを奪い取ってさっさと送迎バスに乗って去っていく、みっくんの素朴な行動がかわいらしい。ちょっと照れくさかったのでしょうかね。
それぞれが離れて暮らすことになるけれど気持ちはつながっている、相手を尊重しつつ自分も大事にするという、シンプルだけど重要なテーマを最終回で心地よく表現してくれたと思います。
切なさや寂しさもあるけど、それを上回る前向きな2人の決断に心があたたまる回でした。
愛生とライオン=愁人(佐藤大空さん)にも親子みずいらずの平和な生活が訪れ、明るい笑顔が戻り本当によかった…。
壮絶な虐待とDVに苦しんでいた過去のシーンが時々挟み込まれていたことで、視聴者である私たちもその苦しみから解放された姿を見てすごく安堵したことは間違いないでしょう。
また、岡山天音さん(柚留木)、向井理さん(祥吾)、柿澤勇人(刑事)などほかの人物のその後も描かれました。
そして、洸人が大学生活を始める準備をしながら美路人と会話をするシーン。「不安だけどわくわくしている」という二人。
洸人は大学での勉強のほかにもやりたいことが見つかりました。
それは、美路人の作品を集めて本にすることーでした。
旅立ちの日。愛生やライオンも含め4人で朝ご飯を食べたあと、それぞれがそれぞれの活動の場に向かって出発するシーン。春から小学生になったライオンも、それまで手にしていたライオンのぬいぐるみではなく、ランドセルを背負って自分で学校に向かいます。それぞれが自立する瞬間でした。
ついつい、長くなってしまった…。
本当に、素敵なドラマをありがとうございました。
柳楽優弥さん、坂東龍汰さん、尾野真千子さん、佐藤大空さん、本当によかった。やっぱり優れた脚本・演出と、それを表現する演技力の高い役者さんで作られるドラマはいいな~。