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イノベーションにおける『結果を見すえた思考』の功罪

感情知能(EQ、Emotional Intelligence)は、自分や他人の感情を認識し思考や行動と調和することで、仕事や生活に役立てる能力のことを指します。EQは、心の知能指数とも呼ばれますが、IQ(知能指数)よりも、人生や仕事における豊かさを手に入れられるかどうかに深く関わっており、変化やストレスにもうまく対応できることから、私はイノベーションや新規事業におけるEQの発揮について研究と実践を進めています。(参考記事:イノベーションと感情知能(EQ))

 私も参画している、国際的なEQ開発組織である6Secondsでは、EQを以下の3つの主要な能力で構成されると定義しています。

知る Know yourself:自己認識
「自分は今何を感じていて、何をしている、何をしようとしているのだろうか」
感情は情報であり、行動に向かわせるエネルギーであることを理解し、適切な内的情報を集めるプロセスが「知る」にあたります。

選ぶ Choose yourself=自己管理
「どのような選択肢があるのだろうか、それだけだろか、ほかにはないだろうか」
無意識的に反応をするのでなく、意図した行動を選択するために、意識的に選択肢を並べ、熟考するプロセスが「選ぶ」にあたります。

活かす Give Yourself=自己方向づけ
「この状況において、自分が望む結果はいったい何なのだろうか」
相手の感情にも配慮しながら、同時に自分のビジョンや使命感を行動に反映させ、軸をぶらさずに行動につなげるプロセスが「活かす」にあたります。

シックスセカンズ・ジャパンHPより

 これまでの記事にて、上記、「①知る Know yourself:自己認識」の構成要素である「感情リテラシー」と「自己パターンの認識」について、それぞれのイノベーションとの関係を考察してきました。今回は、これに続いて「②選ぶ Choose yourself:自己管理」の構成要素である結果をみすえた思考について、イノベーションとの関係を考えてみたいと思います。

「結果を見すえた思考」は、『自分がとろうとする選択肢のメリットとデメリットに関して、行動をとる前に考えることができること』と説明され、イノベーションにおいて、合理的な意思決定や効果的な戦略立案に欠かせない一方で、未来(結末や成果)を意識しすぎると、思考の柔軟や偶然からもたらされる様な新たな発見の機会を逃してしまうリスクも伴います。

ここから、このように、イノベーションに対する「結果を見すえた思考」の二面性を理解し、その強みを適切に活用する方法について考えていきましょう。


結果を見すえた思考の利点

「結果を見すえた思考」は、仮説構築や戦略構築において非常に有効です。具体的には、以下のような利点があります。

  1. 仮説の質を高める
    事前に、行動の結果やそこにいたるプロセスも含めて洞察することで、どの選択肢がより効果的であるかを見極め、妥当性の高い仮説を立てやすくなります。これにより、限られたリソースを有効活用したり、大きなリスクを排除することに役立ちます。

  2. 明確な戦略の構築
    目標達成に必要なステップを見極め、行動計画を立案する際にも、結果を見すえた思考は非常に役立ちます。結果を精度高く想定することで、それを共有するメンバーやステークホルダーにも説得力の高い説明が可能となることはイノベーション推進に大いに役立ちます。

  3. リスク軽減と失敗の回避
    好都合な結果だけを想定するのではなく、あらかじめデメリットやリスクを考えることで、潜在的な問題や困難を推定してこそ、様々な選択肢に対して柔軟な対応策を準備しておくことも可能になります。大胆な行動の中身にこの様な慎重さ兼ね備えられると、イノベーションを進める上で強みとなるでしょう。

結果を見すえすぎることの弊害

しかし、結果を見すえた思考が過剰になり、大胆さや楽観性が損なわれてしまうと、以下のような弊害が生じ、イノベーションを阻害する可能性があります:

  1. 行動の選択肢が制約される
    結果・成果を重視するあまり、安全な選択に偏ってしまいがちです。これにより、リスクの伴う新たな試みや大胆なアプローチを試す機会が失われ、結果的に選択肢が狭まります。イノベーションには、未知の領域への挑戦と「失敗からの学習」が不可欠ですが、結果・成果に意識が集中しすぎると、その挑戦に踏み出せなくなってしまうのです。

  2. セレンディピティーの欠如
    イノベーションには、偶然の発見(セレンディピティー)が重要な役割を果たすことが多くあります。あらかじめ計算された行動のみを選び取ると、予想外の発見や他分野からの影響を受ける機会が減り、創造的なひらめきのきっかけが少なくなります。セレンディピティーをもたらすのは、予定外の選択や計画外の行動ですが、結果を見すえた思考はそれらの選択肢を「意図せず排除してしまう」作用があることを理解することは重要です。

  3. 行動からの学びが不足する
    イノベーションには、実際に行動を起こしてその結果から学ぶというプロセスが非常に重要です。成功を重視する思考よりも「成長を重視する思考」を持った人のほうが、新規事業においては成功確率が高いことも研究されています。結果を見すえすぎると、行動に移す前に最適解を見つけようとするあまり、行動自体が遅れたり、行動を起こさないままになることが多くなり、結果的に行動から得られるフィードバックから学習・適応が遅れ、イノベーションの妨げになるのです。

強みを適切に活用し、イノベーションに役立てる方法

「結果を見すえた思考」をイノベーションに役立てるには、以下のようなアプローチが有効です:

  1. 行動とフィードバックを重視する「小さな実験」を行う
    結果を見すえることが役立つのは、特にリスクの大きいプロジェクトや資源が限られた状況での戦略立案時です。ですが、すべてを慎重に計算するのではなく、まずは小規模な実験として試し、そこからのフィードバックを迅速に受け取るようにします。このように「行動→フィードバック→改善」のサイクルを早く回すことで、行動から得た知見をイノベーションに活かすことができます。

  2. 「仕上げたら負け」ルールを採用する
    完全な情報や明確な結果が得られるまで動かないのではなく、「思い立った段階で行動する」つまり、「100%仕上げたら負け」というルールを取り入れます。イノベーションには、ネガティブ・ケイパビリティとも呼ばれる、不確実性の中でも前進する姿勢が重要であり、不十分な状態でも行動を起こすことに慣れ親しむ必要があります。

  3. 仮説と実験結果を反復する姿勢を重視する
    結果を見すえた思考を活かしつつ、完璧な戦略や解を求めすぎないよう、行動の反復から仮説を磨く姿勢を大切にします。つまり、仮説に基づいて行動し、そこからの結果を新たな仮説に反映するという「仮説実験」のプロセスを継続的に行うことで、柔軟な戦略が育まれます。


「結果を見すえた思考」をイノベーションのために活用するには、適度な慎重さと行動から学ぶ姿勢のバランスを取り、仮説と実践のサイクルを早めることがポイントです。この「バランス取り」を一人で完結せずに、様々なコンピテンシーを備えた「チームとして補完し合う」事も重要になります。

この「仲間づくり」に関してもEQは非常にやくだつものであり、引き続き、「イノベーションとEQ」の話題を掲載していきたいと思います。

最後まで目を通して頂きありがとうございました!

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