立ち幅跳びが上手だと他の運動能力や認知能力も高い⁉︎レベルアップの秘訣も紹介
今回は、「跳ぶ運動の大切さ」についてお話しします。
「跳ぶ」より「着地」の動作を先に習得しないと大怪我しちゃう⁉︎
自分の力で体を空中に投げ出すジャンプは、人種や文化の違いに左右されることなく2歳ごろに可能になると言われています。ただ、最初は「跳ぶ」というより「落ちる動作」に近いと言えるかもしれません。
「踏み切り動作」より「着地動作」を先に習得することは、ケガ予防の点からも非常に重要です(学問的には「着地緩衝能力の獲得」と呼びます)。もし、着地動作を習得しないうちに跳んでしまうと、着地の際に膝や腰の関節を順序よく屈曲させながらショックを吸収しなければ大人でも20㎝の高さの台から飛び降りただけで大怪我すると言われています。
これは自動車においてブレーキ機能が重要であることと同じではないでしょうか?走る性能がいくら優れていても、より安全・確実に止まれなければ安心して運転できませんよね。なので自動車メーカーはブレーキの開発にとても重きを置いているのです。
立ち幅跳びでお子さんの運動能力・体力をチェックしてみよう!
さて、最近は体力が低い子どもたちが多くなったと言われています。幼児においても運動が得意な子と苦手な子の二極化が見られ、なかでも立ち幅跳びにおいて特にその傾向が強いと報告されています。
立ち幅跳びは「瞬発力」や「跳躍力」を測る目安とされている運動です。着地の際のバランス、反動をつける際の柔軟性、手足のタイミングを合わせることなど様々な能力が関係しあっています。立ち幅跳びが上手に跳べると運動能力が高いと言えますので、ご家庭や保育園で気軽に行える体力測定として立ち幅跳びはおすすめですよ。
子どもの立ち幅跳び記録は昔より6〜7㎝もダウン…
先ほど体力が低い子どもたちが多くなったと話しましたが、立ち幅跳びの記録においても昔に比べて低下しているというデータがあります。30年前の子どもたちと比較すると、平均的な身長は変わらないのに立ち幅跳びの記録は平均6〜7㎝ほど低下しているのです。
以下は、1985年と2013年で幼児の立ち幅跳びの5段階評価の分布を比較したものです。
男女とも昔に比べて「劣る」「やや劣る」が増えています。もちろん運動能力の高い子もいますが全体的に低い評価のほうへの分布の裾が広がっているのです。
子どもたちの運動能力のベースアップの鍵になるのは?
立ち幅跳びに限らず、最近は体力の低い子どもが増えたことで全体の平均値が下がっていると言われています。子どもの運動能力のベースアップのためには体力水準の低い子どもたちのレベルアップが求められますが、そのためには一人ひとりが目指す具体的な目標値を決めてあげることが大切です。
ではどのように目標値を決めたらよいでしょうか?立ち幅跳びにおいては、跳ぶ距離(水平移動距離)は身長の影響を受けることが分かっているので「身長を基準とした目標値」を設定するとよいでしょう。たとえば年中さんであれば「自分の身長と同じ距離」を跳ぶことを目標にしてもらいたいと私は考えています。こういった具体的目標値があると、子どもたちがご家庭や保育園で運動に取り組む強い動機づけにもなります。
下記のグラフは、石川県内3 3 保育園の年少から年長までの園児の「身長と立ち幅跳びの関係性」を示した図です。
もし、立ち幅跳びの記録の全体平均があと10㎝伸びれば身長同等線(図では「基準線」)を超える園児が過半数になります。先ほど「全体的に低い評価のほうへの分布の裾が広がっている」と話しましたが、自分の身長よりも長い距離を跳べる子が過半数となれば、高い評価のほうへの分布が広がりますね。
ぜひ「自分の身長と同じ距離を跳ぶこと」を最初の目標として子どもたちに設定してあげてみてください!
立ち幅跳びの能力が「その他の運動能力」や「生活行動」にまで影響⁉︎
以前、立ち幅跳びで身長値を跳べる園児と跳べない園児で「体力的特徴」および「生活行動特性」に違いがあるか調べたことがあります。石川県内の33保育園に通う年中から年長までの園児を対象に、運動能力の測定に加えて生活行動も調べてみたのです。生活行動の調査については、一人ひとりの子どもの様子を保育士さんが観察し下記の項目について回答してもらいました。
まずは、運動能力測定の結果について紹介します。立ち幅跳びの能力レベル別に「腕立て支持時間」「捕球」「20m走」「ボール投げ」の能力を比較しました。その結果、自分の身長と同じ距離を跳べる園児と跳べない園児ではすべての運動項目で差が認められたのです。下記は男児の結果を示した表ですが女児もほぼ同様の結果でした。
次に、立ち幅跳びの能力と生活行動との関連性についての調査結果です。下記の表でグレー色になっているところで関係性が認められました。
数値の大きさを見ると、男児では以下の順で関係性が強く、
とっさの動きができない
体が固い
群れ遊びをしない
理解力が低い
注意力・判断力が鈍い
女児では以下の順で関係性が強いことが分かります。
とっさの動きができない
意欲や気力がない
理解力が低い
注意力・判断力が鈍い
体が固い
集中できない
仲間や保育者の話を聞かない
今回の調査により、立ち幅跳びで自分の身長値を跳べる園児と跳べない園児では、「体力的特徴」だけではなく「認知機能」にも差が見られ生活行動にも関係することが認められました。
特に「危険回避能力」との関係が強い
立ち幅跳びの能力と生活行動について最も関係性が強かったのは、男女ともに「とっさの動きができるかどうか」です。
不意に遭遇した危険な場面でそれを回避するには、動作開始の素早さが重要となります。そういった意味で、立ち幅跳びは「危険回避能力」がどれくらいあるかの目安を測れる運動と言えるのではないでしょうか?
まずは「自分の身長と同じ距離」を跳ぶことを目指そう!
今回は「立ち幅跳び」の能力と「その他の運動能力」および「生活行動」との関係性についての調査結果を紹介しました。立ち幅跳びが苦手なお子さんはまずは「自分の身長と同じ距離」を跳ぶことを目標に励んでみてくだいね!