セーラの叔父さま 42話
そうだったのね・・・そうだったんだわ・・・
そして・・・セーラは下を見て黙り込んでしまった。
気まずい空気が流れる。
カリスフォード氏はニッコリ笑ってこう言った。
「あ、そうだ!セーラ、君に見せたいものがあるんだ!さあ、あっちに行こう」
カリスフォード氏に連れられて行った部屋にあったのは何故か見覚えのあるものばかり。
「これはクルーのインドの家にあったものだよ。破産した時に持ち物はいろんな所に散逸してしまっていたのだけど、できる限り探して取り戻したんだ。どうだい?見覚えのあるものはあるかな?」
セーラがインドを離れたのは7歳の時だった。
今13歳のセーラはここにある全ての物をおぼろげながらでも覚えていた。いや、はっきりと覚えている物もあった。
お父様といつも一緒に座っていたソファー。お父様が好きだったインドのカリー神の置物、お父様のお気に入りのティーカップ・・・。
見ているうちにぽろぽろと涙が溢れてきた。
「お父様・・・」
カリスフォード氏は何も言わずセーラの後ろにそっと立っていた。
ふとセーラの目にとまった物があった。本だ。
「ああ、懐かしい。これも、これもお父様が読んでくださった本だわ」
夢中で何冊もある本を手に取って中を確認するセーラ。
「あ・・・」
セーラの手が止まった。
その本のタイトルは『日本大図鑑』と書かれている。
中には美しい日本の風景、浮世絵、枕草子の解説など、日本に関係した様々なことがふんだんに載っていた。
「これは・・・叔父さまのあの部屋にあったものと同じ・・・」
その時。セーラの頭に何かが閃いた。
セーラはその本を両手に抱えて立ちすくんでしまった。
「わかったわ。そうだったのね・・・そうだったんだわ・・・やっぱりそうだったんだわ・・・」
セーラは自分自身に尋ねる。
(私の中の人が日本人?私、日本語しゃべれる?・・・いいえ、しゃべれないわ。
日本人だった頃の私の名前は?・・・知らないわ。
日本で住んでいた家は覚えてる?・・・覚えてないわ。
家族は?・・・全く覚えていない・・・。
それじゃあ叔父さまの名前は?・・・知らないわ。叔父さまとだけ呼んでいた・・・)
振り返ってカリスフォード氏の顔をしっかり見るセーラ。
「カリスフォードさん、わかりました。わかってしまいました。
何もかも・・・全ては私の想像の産物だったのです。
辛い日々を乗り越えるために私自身が生み出したのが<叔父さま>の存在だったのです・・・きっと・・・
だから、今、叔父さまはいない・・・」
セーラは大粒の涙を流していた。
そんなセーラをそっと包み込むように抱きしめるカリスフォード氏。
「辛かったんだね。大丈夫、これからは私が君の<叔父さま>だ。
セーラ、これからは私を叔父さまと呼んでくれないかな」
涙がいっぱいの顔でカリスフォード氏の顔を見上げるセーラ。
ちょっと恥ずかしそうに小さい声で呼びかける。
「叔父さま・・・」
カリスフォード氏は愛おしそうにさらにギュッとセーラを抱きしめた。