セーラの叔父さま 31話
屋根裏部屋のパーティー
アーメンガードがようやく叔母様から荷物が届いたことを思い出した。
「ケーキが入っていたわ。小さいミートパイもあったし、ジャムのタルトとか丸パンとか、オレンジとか、レッド・カラントのワインとか、イチジクとか。あたし、こっそり部屋にもどって、今すぐ取ってくるわ、一緒に食べましょうよ」
何が入っていたか良く覚えてるよね。
好きなものは一瞬見ただけでこれだけ覚えられるということはやっぱりアーメンガードは単なる馬鹿ではないと言える。勉強方法さえ自分に会ったものならきっと成果を出せると思うのだ。
そして、セーラは言うのだ。
「ねえ、アーミー!<空想ごっこ>しましょうよ!パーティーの<空想ごっこ>をするの!」
メチャクチャお腹がすいているときに<空想ごっこ>!
目の前に美味しいものがあれば、<空想ごっこ>なんてせずにすぐに食べればいいじゃないの・・・と、セーラの中の人である中年女性の私は思うのだけど、とりあえずこのエピソードは「小公女」の重要シーンなのでほぼ原作通りに話が進んでしまうのだろう。
ただ、このパーティーにベッキーの他に原作には出てこない叔父さまも呼ぶことにした。
「あら~!素敵ね。じゃあ私の持っているお菓子やパンも提供するわ!楽しいパーティーになりそうね」
フランソワーズ(叔父さま)は楽しそうにパーティーの準備に取りかかった。
そして、セーラにこっそりとフランス語で
「これが例のエピソードだね」と囁いたのだ。
アーメンガードの赤いショールをテーブルクロスにして床には赤くて柔らかな分厚い絨毯が敷いてあるつもりになる。セーラの古いトランクの中にあった12枚の白いハンカチを金のお皿や豪華な刺繍をしたナプキンだと空想する。
古い夏用の帽子の花飾りを晩餐会の花飾りにする。洗面台にあるマグカップをワインの大瓶と見立て、石けん皿にバラの造花をこんもりと飾り付けて真っ白なアラバスターに宝石がちりばめているものだと見立てる。
セーラの想像力は凄いと思う。次から次へといろんなものをいろんな風に見立てていくのだ。
アーメンガードが食べ物を持ってくると食べる前にまた、あーだこーだと、<想像ごっこ>が延々と続くのだ。こんなことしないでさっさと食べればいいのに・・・とセーラも叔父さまも心の底で思っていたら・・・。
誰かが階段を上がってくる足音が・・・。
そうだ、ミンチン先生がやって来たのだ。
ミンチン先生はドアを乱暴に開け放つ。
怒りのために顔面が蒼白になっているミンチン先生。
「ここまで恥知らずなことをしていたとは」
何故そこまで腹が立つのか?食事も満足に与えられずようやく美味しいものを食べられると喜んでいる子供をみて腹を立てるのは自分の方が酷く恥知らずだとは思わないのか。
セーラは何も言わずミンチン先生の顔を見つめる。
ミンチン先生はベッキーに平手打ちをして、明日ここを出て行くように告げて、自分の部屋に下がらせる。
セーラには、明日は朝も昼も夕食も無しだと告げる。
セーラは今日もお昼も夕食もいただいていないと言うが
「それならば、なおさら結構。これで少しは身にしみるでしょう」
おいおい、それって児童虐待だぞ!と叔父さまが言おうとするが
「フランソワーズ、あなたはセーラの叔父の使用人としてここにいますが、これは教育なんです。
すばらしい女性になるための教育をしているのです。ですから、あなたのご主人に言いつけても無駄です。わかりましたか?そもそもあなたはセーラを甘やかせて時々セーラの仕事を手伝ったり食事を与えていましたね。私は全てお見通しなのですよ。ただ、お情けで見て見ぬ振りをしていただけなのです。
今後、セーラに勝手に食事を与えたりしたらここを出て行って貰います。
私はセーラの父親からセーラの教育を任されているのですから、法律もわたくしの主張を認めてくれるはずです」
真っ赤になってわめき散らしているミンチン先生をセーラはじっと厳しい目つきで見つめている。
「何を考えているのです!?何故そのような目つきでわたくしを見るのです!?」
「私、考えていたのです」
「何を?」
「私は考えていたのです。私が今晩どこにいるかを知ったら、私のお父様はなんとおっしゃるのかしら、と」
ミンチン先生はかんかんに怒り、セーラに飛びかかり、セーラの両肩をつかんで激しく揺さぶったのだ。あわてて叔父さまがそれを止めに入るとミンチン先生はわめいた。
「なんとふてぶてしい!救いがたい子供だ事!よくも言いましたね!よくも!」
自分が正しくないことをしているのを指摘されると腹が立つのはわからないでもない。しかも子供に言われるのだからミンチン先生が怒るのは無理もない。
ミンチン先生はテーブルのお菓子をかごに放り込んでアーメンガードを先に立たせて戸口に向かった。
「好きなだけ考えていればよろしい!」