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この道

大きくて小さな樹からはじまった私のこの道


私の「今」
それは、
あの大きくて小さな樹との出会いからはじまりました。

日々の暮らしの中で
引く波のように消え薄れていく幼い記憶
それでも微かに残響している歌が私にはあります。
その歌は私の手をそっとにぎり
あの春の日、あの風が吹く場所、あの優しい時間に
連れ戻してくれます。

それが
北原白秋作詞、山田耕筰作曲の日本の童謡
「この道」です

『この道はいつかきた道
ああ そうだよ あかしやの花が咲いてる』
(この道)

私のとっての「この道」

それはおかっぱ頭の五歳の私が
野の花と戯れ歩いた春の小さな小さな小道です。

当時の私は、歩くと鳴る靴の音が大好きでした。
土の地面をサクポク、サクポク・・・
歩くと、なんとも言えない軽やかな音がして
いつも足下ばかり見ながら歩く子どもでした
そうやって靴音を愉しみながら春の小道を歩くと、可憐な野の花が道の脇にたくさん勢揃いし私に話しかけてきたものでした。

白い花のぺんぺん草
明るい紫色のホトケノザ
黄色いたんぽぽとふわふわした真っ白な綿毛
そして、青空の子どものようなオオイヌノフグリ

私の記憶の「この道」に咲いていたのは
そんな小さな野の花たちでした

その道をまっすぐ進むと稲荷神社があります。
そこには私が勝手に命名した「私の樹」という大きな樹がありました。

ひらひらのスカートを腰まで巻き上げ
「こんにちは、私の樹!」
と大声で呼びかけながらよじ登ると
「私の樹」は両手を長〜く広げ、
緑の服をまとった丸い葉をそよそよと揺らしながら
「おぉ、よおく来たな」
と言って私を出迎えてくれました。

それからとってもたくさんの月日が流れ
私は大人になりました。
ある日、稲荷神社を訪れる機会が偶然にあり、
そこで何十年かぶりに「私の樹」と再会しました。

私の樹はあの頃と全く変わりませんでした。
しかし、あんなに大きかったはずの樹が
実はとっても背の低い樹だったことにその時気がいたのです
(いま思えば運動音痴な私が登れたくらいですからね ^ ^ )

それでも、あの太い枝は健在で、
腕に近づきそっと手で触れてみたら
そよそよそよそよ・・・とあの時の風と
あの時の挨拶を返してくれました。

『この道はいつかきた道 ああ、そうだよ・・』

気がつくとこの歌を口ずさんでいました。

私にとっての「この道」は
あの大きくて小さな私の樹に続く
可憐な野の花が咲く小さな小さな道でした

その道が
こうして「今」に続いています。

みなさんの「この道」は
どこから始まり
どんな道でしたか?

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この道は いつか来た道
ああ そうだよ あかしやの花が咲いてる

あの丘は いつか見た丘
ああ そうだよ ほら 白い時計台だよ

この道は いつか来た道
ああ そうだよ お母さまと馬車で行ったよ

あの雲も いつか見た雲
ああ そうだよ 山査子(さんざし)の枝も垂れてる



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