【破壊的なマイナスの行動を組織が取らないためには】~日本講演新聞
「感動と学びを世界中に」心揺るがす日本講演新聞がおおくりします。
アビリーノ症候群~反対意見が言いやすい包囲環境~
ジャーナリスト 幸田シャーミンさん
誰かがリーダーシップを取ろうとするとき、そのリーダーに反対の意見を持っている人がいるかもしれません。ところが私たちは対立が嫌いなので、「安易な合意」や「偽の合意」に走ったりします。
これを「アビリーノ症候群」といいます。そのエピソードです。
組織学者のハービーさんという人が、ある日、妻の実家に遊びに行きました。実家はテキサス州にある小さな町です。8月の暑い日でした。
実家のお父さんが「今からアビリーノにドライブに行こう」と言い出しました。
それを聞いたハービーさん、「何てことを言うんだ!」と思いました。アビリーノというところはその家から180キロも離れていて、しかも砂漠です。車にはエアコンが付いていません。「この暑い日に今からアビリーノに行くなんてとんでもない」と思ったのです。
ところが横にいたハービーさんの妻が「あら、お父さん、それいいんじゃない。ねぇあなた」とハービーさんに言うわけです。
咄嗟にハービーさん、「僕はいいけど、お義母さんが何て言うかね?」と、お義母さんが否定してくれることを期待したら、お義母さんも「あら、いいわよ」ということになって、みんなの合意の上でアビリーノに行くことになりました。
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すると想像した通り、窓を開けて走るからほこりまみれ、汗まみれ。
途中、食事をしようと思っていたレストランが休みだったので、すごくまずいお店で食べ、また片道180キロの道を帰っていきました。
家に入ったらみんなバラバラに座り、一言も口をききませんでした。
しばらくしてお義母さんが「実は私は家にいたかったのよ。でもみんな行きたそうだったからお付き合いしたのよ」と言ったんです。
それを聞いたハービーさんの妻は、「私だってあの暑さ、想像しただけで行きたくはなかったけど、あなたが行きたいと言ったから…」とハービーさんに言うわけです。
彼は咄嗟に「僕は自分から行きたいと言った覚えはないよ。同意しただけだよ」と言ってしまったのです。
そしたらお義父さんが「せっかくおまえたちが遊びに来てくれたのに晩ご飯が冷凍食品じゃ気の毒だから、僕は行きたくなかったけど君たちのために誘ったんだ」と言ったのです。
この話でハービーさんは何を言いたかったかというと、家族という最も気楽で親しい関係であっても本当のことがストレートに言えない。それで「偽の合意」が起きてしまうということです。
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そこでハービーさんは、「自分たちにとって結果的に破壊的なマイナスの行動を組織が取ってしまう合意」を「アビリーノ症候群」と名付けました。これは組織や会社でも起きるんですね。
「なんでこんな企画が誰の反対もなく通ってしまったのか」と。
みんな「自分さえ我慢すればいい」「反対意見が言えない雰囲気がある」ということで「偽の合意」をしてしまうんですね。
これを避けるには組織の中で合意をするときに、リーダーと違う意見を持っている人がいたら、その人が意見を言える環境をつくることが大事です。これを「包囲環境」といいます。「包み込む」環境です。
「本物の合意」をしていくためには対立が避けられないときもあります。でもそれが破壊的な対立意見でなければ、「本物の合意」をつくるための摩擦はかえってヘルシーだということです。
(日本講演新聞 1999年2月8日号より)
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました♪