宮本浩次「ロマンスの夜」に向けて ~意図せずして出会ってしまう~
オフィシャルサイトを開くと、漆黒の画面に浮き上がる『宮本浩次 ロマンスの夜』の文字。そして、その向こうには星が瞬いている。呆然と見ていると流れ星まで流れていった。その瞬間「あーあ…」と心の声がした。畳み掛けるように、新作カバー作品『秋の日に』の発表があり、Twitterでは、取り下げとなったが一時的にどこかの記事でコンサートでのドレスコードについて記載があったとの呟きも見かけた。
宮本浩次はどこに行ってしまうのだろう…という一抹の不安を覚えた。
そんな中、先日はスッキリに出演していた。マンスリーMCの濱津隆之さんが、前回のアルバムROMANCEについて「男性が女性の歌をカバーしているというより、女性が歌っているように聞こえる」と話していて、思わず「分かってらっしゃるッ!」と相槌を打ってしまった。宮本浩次のカバーの魅力はそこに尽きる気がする。憑依という表現もあるが、没入という方がシックリくる。際限なく歌の世界に没入していく宮本浩次が、自らの女性性に出会ってしまったような歌唱に引きずり込まれるように、こちらも歌の世界に没入していく。そんな彼自身がロマンスを体現したようなアルバム。それがアルバムROMANCEの魅力だ。そして、意図せずしてこのアルバムに出会ってしまった人も多いことだろう。やっぱり、ロマンスとは出会ってしまうものなのだ。
また、アルバムROMANCEで宮本浩次自ら選曲した歌には別れの歌も多く、そこにはカッコイイ女性が度々登場する。『あばよ』『ジョニィへの伝言』『二人でお酒を』どの女性も別れ際がカッコイイ。崩れ落ちそうな心を抱えながらも、自ら進んで別れに立ち向かっていく強さがある。そこを宮本浩次もカッコイイと話していた。こんなところに着眼するのも、彼らしさなのかもしれない。ずいぶん昔にラジオ番組で宮本浩次が「自分にとってカッコイイって大事なんです。」ということを話していたのを思い出した。理由については言葉にしきれないようで有耶無耶で終わったのも覚えている。その時は、子供みたいに可愛いこと言ってるな…と思っていた。でも、それは彼の信念のような美意識だったのかもしれない。外見だけではない、言動、眼差し、決断。全てにカッコよくありたいという意志が宿っているような…。そして、私が宮本浩次の在りように「カッコイイ」「美しい」との言葉が出てしまうのは、目の前のことに対して驚かされる程、真摯に向かっていく姿に他ない。「この人、本気だわ…」というのが宮本浩次との出会いだったし、それはこのカバーアルバムでも変わらない。そう思うと不安も消えていった。
今回のコンサートは文字どおりのロマンスの夜になるのだろうか。それとも、甘美なロマンスに留まらずそこを越えていくような夜になるのだろうか。きっと後者になるのだろう。