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東慶寺 気持ちは後、泣くのは最後。
北鎌倉で先ずは東慶寺に参拝した。簡素な茅葺屋根の山門が印象的で、境内もこじんまりとしている。このお寺には小林秀雄、鈴木大拙、西田幾多郎、そして先日亡くなった谷川俊太郎の父、谷川徹三など多くの著名人のお墓がある。私的にオオーッ!と声を上げてしまう方ばかり。
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入口には「境内全域、撮影禁止です。」との案内があった。『寺院は観光名所ではなく…』と寺院の考えも添えられていて誠実なお寺だな…と思った。
東慶寺は鎌倉時代の弘安8年(1285)に開創された臨済宗円覚寺派の寺院です。女性から離婚できなかった封建時代に、当寺に駆け込めば離縁ができる女人救済の寺として明治に至るまでの600年間、縁切りの寺法を引き継いできました。
そして、俗に言う『縁切り寺』とか『駆け込み寺』とか言われている。
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山門に向かいながら、母も時代が違っていたら、私と妹を連れて駆け込んでいたのかな?と思ったり、子連れって聞かないし、母だったら子供を置いて駆け込むとか無いだろうな…とか思ったりした。
少し寂し気な山門を見ていると、この先に平穏があるようには思えない。それより山門から振り返った景色の方がよっぽど平穏に見えるのに…と思うとやり切れない気持ちになった。
境内はシャッターを切る音も、話し声も無くとても静かで、裏山の風に揺れる木立がザザッ…ザザザーッとさざ波のような音を立てていて、やけに甲高い鳥の鳴き声も薄曇りの空によく響いていた。そして、朝から降っていた霧雨のような小雨が止んだばかりだったので、周りに立ちのぼる湿った草の匂いが心地よく、思わず何度も深く息を吸っては吐いた。ひとり静かに境内を歩きながら、この寺に駆け込んできた女性達を思った。600年のうちにどれだけの女性が駆け込んだのだろう?
『さあ、どうする?』と迫られるような状況や出来事に遭った時、いつも私は『気持ちは後、泣くのは最後』だった気がする。
ここに駆け込んできた女性達もそうだったんじゃないかな…と思った。それ相当の覚悟を持って行動した先にしか辿り着けない場所だもの。みんな安心出来る境内でやっとポロポロと泣けたんじゃないかな…。そう思ったら周りに人も居ない安心感もあったのか、もらい泣きのような涙がこぼれ落ちてきた。でも、直ぐに『駆け込み寺で泣いてる女ってどうなのよ…』と我にかえってハンカチで涙を拭いた。
なんだか、私にはとてもエモいお寺になってしまった。