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ウチの主人です

短編集が好きだ
1冊に30、40の物語がゴロゴロ出てくるような

断片的なのが良い
起承転結になってない感じ
伏線回収みたいなめんどくささもない
想像する余白がある

本日、私は古本チェーン店にて
ルシア・ベルリン
清掃婦のための手引き書を手に取る

レジに向かい会計をしていると
店内の買い取りスペースのような場所で
老婦人が買い取り手続きしている
店員に
『身分を証明するものありますか?』
と聞かれて少し困った感じだ
店員さんを見るともっと困っている感じである

私は"物語"の断片的な匂いがしてワクワクした

老婦人はヌルッとひらめいた様に
『ちょっと、あなた来て!』
と誰かを呼んだ
少して現れた老人男性に彼女は
ウチの主人です
と言った

え、主人を"身分証明書"の代わりにするってことか

なるほど、それは斬新なやり口だ

身元引受人のやり口やん

ただ、古本チェーン店の買取りでそれが通るかは分からないが

『いい"断片"観れたなぁ』

私が観たのはここまで

もしかしたら主人が身分証明書を持っていて
老婦人の代わりに買い取りしたのかもしれない

もしくは持ってなくて買い取り出来なかったのか

または別の物語があったのか

そんな"真実"はどうでもよくて

『ウチの主人です』って言った時の
老婦人の声には受け手によって感想が違ってきそうなおもしろさがあった

小学生が将棋で『王手』っていう時のドヤ感もあるし
愛の告白みたいな美しさもあるし
コメディなのかホラーなのか
分からない怖さもある

短編集はこうでなくては


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