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古事記百景 その二十七
葦原中国
故此大国主神。
娶坐胸形奧津宮神。
多紀理毘売命。
生子。
阿遲鉏高日子根神。…自阿以下二字以音…
次妹高比売命。
亦名下光比売命。
此之阿遲鉏高日子根神者。
今謂迦毛大御神者也。
大国主神。
亦娶神屋楯比売命。
生子。
事代主神。
亦娶八嶋牟遲能神之女鳥耳神。…自牟下三字以音…
生子。
鳥鳴海神。…訓鳴云那留…
此神。
娶日名照額田毘道男伊許知邇神。…田下毘又自伊下至邇皆以音…
生子。
国忍富神。
此神。
娶葦那陀迦神。…自那下三字以音…
亦名八河江比売。
生子。
速甕之多氣佐波夜遲奴美神。…自多下八字以音…
此神。
娶天之甕主神之女。
前玉比売。
生子。
甕主日子神。
此神。
娶於加美神之女。
比那良志毘売。…此神名以音…
生子。
多比理岐志麻流美神。…此神名以音…
此神。
娶比比羅木之其花麻豆美神之女。…木上三字花下三字以音…
活玉前玉比売神。
生子。
美呂浪神。…美呂二字以音…
此神。
娶敷山主神之女。
青沼馬沼押比売。
生子。
布忍富鳥鳴海神。
此神。
娶若盡女神。
生子。
天日腹大科度美神。…度美二字以音…
此神。
娶天狭霧神之女。
遠津待根神。
生子。
遠津山岬多良斯神。
右件自八嶋士奴美神以下。
遠津山岬帯神以前。
称十七世神。
故大国主神。
坐出雲之御大之御前時。
自波穂。
乗天之羅摩船而。
内剥鵝皮剥。
為衣服。
有歸來神。
爾雖問其名。
不答。
且雖問所從之諸神。
皆白不知。
爾多邇具久白言。…自多下四字以音…
此者久延毘古必知之。
即召久延毘古。
問時。
答白此者神産巣日神之御子。
少名毘古那神。…自毘下三字以音…
故爾白上於神産巣日御祖命者。
答告此者實我子也。
於子之中。
自我手俣久岐斯子也。…自久下三字以音…
故興汝葦原色許男命。
為兄弟而。
作堅其国。
故自爾。
大穴牟遲興少名毘古那。
二柱神。
相並。
作堅此国。
然後者。
其少名毘古那神者。
度于常世国也。
故顯白其少名毘古那神。
所謂久延毘古者。
於今者山田之曽富騰者也。
此神者。
足雖不行。
盡知天下之事神也。
於是大国主神愁而。
告吾独何能得作此国。
孰神興吾能相作此国耶。
是時有光海。
依來之神。
其神言。
能治我前者。
吾能共興相作成。
若不然者。
国難成。
爾大国主神曰。
然者。
治奉之状奈何。
答言吾者。
伊都岐奉于倭之青垣東山上。
此者。
坐御諸山上神也。
故其大年神。
娶神活須毘神之女。
伊怒比売。
生子。
大国御魂神。
次韓神。
次曽富理神。
次白日神。
次聖神。…五神…
又娶香用比売生子。…此神名以音…
大香山戸臣神。
次御年神。…二柱…
又娶天知迦流美豆比売。…訓天如天亦自知下六字以音…
生子。
奧津日子神。
次奧津比売命。
亦名大戸比売神。
此者諸人以拜竈神者也。
次大山咋神。
亦名山末之大主神。
此神者。
坐近淡海国之日枝山。
亦坐葛野之松尾。
用鳴鏑神者也。
次庭津日神。
次阿須波神。…此神名以音…
次波比岐神。…此神名以音…
次香山戸臣神。
次羽山戸神。
次庭高津日神。
次大土神。
亦名土之御祖神。…九神…
上件大年神之子。
自大国御魂神以下。
大土神以前。
并十六神。
羽山戸神。
娶大氣都比売。…自氣下四字以音神…
生子。
若山咋神。
次若年神。
次妹若沙那売神。…自沙下三字以音…
次弥豆麻岐神。…自弥下四字音…
次夏高津日神。
亦名夏之売神。
次秋毘売神。
次久久年神。…久久二字以音…
次久久紀若室葛根神。…久久紀三字以音…
上件羽山戸神之子。
自若山咋神以下。
若室葛根以前。
并八神。
大国主神は胸形の奥津宮に鎮座される神の多紀理毘売命を娶り、阿遅鉏高日子根神を、次に妹の高比売命、またの名を下光比売命をお生みになりました。
阿遅鉏高日子根神は今は迦毛大御神と言われております。
大国主神はまた、神屋楯比売命を娶り、事代主神がお生まれになりました。
また、八島牟遅能神の娘の鳥取神を娶り、鳥鳴海神がお生まれになりました。
この神が日名照額田毘道男伊許知邇神を娶り、国忍富神がお生まれになりました。
この神が葦那陀迦神、またの名を八河江比売を娶り、速甕之多気佐波夜遅奴美神がお生まれになりました。
この神が天之甕主神の娘の前玉比売を娶り、甕主日子神がお生まれになりました。
この神が游加美神の娘の比那良志毘売を娶り、多比理岐志麻流美神がお生まれになりました。
この神が比比羅木之其花麻豆美神の娘の活玉前玉比売神を娶り、美呂浪神がお生まれになりました。
この神が敷山主神の娘の青沼馬沼押比売を娶り、布忍富鳥鳴海神がお生まれになりました。
この神が若尽女神を娶り、天日腹大科度美神がお生まれになりました。
この神が天狭霧神の娘の遠津待根神を娶り、遠津山岬多良斯神がお生まれになりました。
上、八島牟遅能神から遠津山岬多良斯神までを十七世神と称します。
大国主神が出雲の御大之御前にいらっしゃった時、波の穂より天之羅摩船に乗り、鵝の皮を剥いだ衣服を身に纏いやって来る神がありました。
その神に名を尋ねるも答えず、周りの神たちに問うも皆知らないと答えます。
多迩具久が、
『久延毘古なら知っているでしょう』
と申すので、すぐに久延毘古を召し、お尋ねになると、
『この方は神産巣日神の御子の少名毘古那神です』
と答えました。
大国主神が神産巣日御祖命に直接お尋ねになると、
『私の手の俣から生まれた子で、我が子に間違いありません。葦原色許男命と兄弟となり国造りに励み、完成させなさい』
と仰いました。
それから大穴牟遅と少名毘古那の二柱の神は協力して国造りに励んだのでした。
しかしながら、国造りが完成を見ないまま、少名毘古那神は常世国に渡って行ってしまわれます。
この少名毘古那神のことを申し上げた久延毘古は、今で言う山田の曽富騰のことです。
この神は一本足なので歩くことは叶いませんが、天下の事を良く知る神です。
大国主神はしきりに愁い、
『これから一人でどうして国造りを進めればいいのか』
と嘆かれます。
その時、海を照らしてやって来る神がいらっしゃいました。
その神は、
『しっかりと私のことを祀るならば、共に国造りをしよう。そうでないならば、国造りは失敗に終わるだろう』
と仰いました。
大国主神は、
『では、どのようにお祀りすればよいのでしょうか』
とお尋ねになると、
『私を倭の国を青垣が囲むようにある東の山の上に祀りなさい』
と仰いました。
この神は御諸山の上に鎮座される神のことです。
大年神は神活須毘神の娘の伊怒比売を娶り、大国御魂神、次に韓神、次に曽富理神、次に白日神、次に聖神の五柱の神がお生まれになりました。
また、香用比売を娶り、大香山戸臣神、次に御年神の二柱の神がお生まれになりました。
また、天知迦流美豆比売を娶り、奥津日子神、次に奥津比売命、またの名を大戸比売神。
この神は諸人が拝む竃の神です。
次に大山咋神、またの名を山末之大主神。
この神は近淡海国の日枝山に鎮座され、また葛野の松尾にも鎮座されており、鳴鏑をお持ちになる神です。
次に庭津日神、次に阿須波神、次に波比岐神、次に香山戸臣神、次に羽山戸神、次に庭高津日神、次に大土神、またの名を土之御祖神の九柱の神がお生まれになりました。
以上大年神の子の大国御魂神から大土神まで十六柱の神です。
さらに羽山戸神が大気都比売神を娶り、若山咋神、次に若年神、次に妹の若沙那売神、次に弥豆麻岐神、次に夏高津日神、またの名を夏之売神、次に秋毘売神、次に久久年神、次に久久紀若室葛根神。
以上若山咋神から久久紀若室葛根神まで八柱の神がお生まれになりました。
※多紀理毘売は宇気比により須佐之男の剣から生まれた女神です。
※下光比売とは光り輝く姫のことです。
※八島牟遅能神は須佐之男神と櫛名田比売の子です。
※鳥取神は鳥耳の神や鳥甘の神とも言われています。
※游加美神は水の神と言われています。
※天狭霧神は神生みで生まれた神です。
※十七世神と書かれていますが、実際には十二柱の神が九代に渡ってお生ま
れになり、登場したすべての神は母神も含め三十柱です。
※御大之御前は三保埼のことで、島根県松江市にあります。
※羅摩はガガイモ科の果実のことです。
※鵝は蛾と言われています。
※多迩具久とはヒキガエルのことです。
※久延毘古は案山子のことです。
※常世国とは海の向こうの国と言われています。
※曽富騰は案山子のことです。
※倭とは大和のことです。
※御諸山の神とは奈良県三輪山の大神(おおみわ)神社の神のことです。
※近淡海国は滋賀県のことです。
※日枝山は京都と滋賀県にまたがる比叡山のことです。
※葛野の松尾は京都市右京区・松尾大社のことです。
※大国御魂神から大土神まで十六柱の神ですと書かれていますが、実際は十七柱の神です。
「太安万侶です。今回は大国主神です。大変でしたね」
「何がでしょ?」
「国造りですけど、他にも大変なことがあったのでしょうか?」
「大変なことと言えるのかどうか分かりませんが、古事記は間違っているんじゃないかと思ってまして」
「それは大変なことですよ。どこが間違っているんですか」
「宗像の奥津宮にいらっしゃる多紀理毘売と結婚し、子まで成したと書かれていますが、本当に彼女でしたか?」
「私はその場にいた訳ではなく、聞いた話とか、書かれていたモノを纏めただけですから」
「なるほど、それはそうですよね。なぜそのように書かれたのかは理解しましたが、多分間違っていると思いますよ」
「どういうことですか?」
「多くの妻がいますから、自信はなかったんですけど、先日、別の所で御本人にお会いしたんですよ。その時に確信したんですが、何と初対面だったんですよね。ご本人にも確認しましたから間違いないと思いますよ」
「とはいえ、今さら書き直すこともできませんから、どうしようもないですね」
「多紀理毘売にお会いになることがあれば、一度キチンと謝ってあげてください。ずいぶん迷惑されてるそうですから」
「承りました」
「それから、どこかで発言の機会があれば、彼女は生涯独身を貫いていると伝えてください」
「独身を貫いてらっしゃるとは?」
「ご本人の言葉です」
「それも承りました。十分に精査したつもりなんですが、昔の話過ぎて確認の取れないことも多くありましたから、残念です」
「書き直しができないんだから、事実は事実として受け止めて、先へ進むしかないですね」
「そうですね。国造りのことも少し聞きたいんですけど」
「どのようなことでしょう」
「少名毘古那神は大事業半ばにして、どうして常世国へ行ってしまったのでしょうか?」
「あれは痛かったですけど、ずいぶん前からの約束らしく、私には引き止める術がありませんでした」
「突然思い立ったように行かれたのではなく、前からの予定だったのですね」
「その通りですが、私が聞いたのは直前でしたから結構慌てましたよ」
「それは大変でしたね」
「でもすぐに次の神が現れてくれましたから助かりましたけどね。そう言えば、大物主神(おおものぬしのかみ)の名が書かれていませんが、何か理由があるんですか?」
「御諸山にご鎮座された神の名ですね」
「そうです、名前間違ってましたっけ?」
「色々とややこしい裏事情がありまして、現段階では名前を書くことを控えなければならなかったんですよ」
「裏事情ですか。それはどういう?」
「言えないから書けないんですよね」
「何とももどかしい」
前の古事記百景をお読みになりたい方はこちらからどうぞ。
古事記百景 その一 古事記百景 その二
古事記百景 その三 古事記百景 その四
古事記百景 その五 古事記百景 その六
古事記百景 その七 古事記百景 その八
古事記百景 その九 古事記百景 その十
古事記百景 その十一 古事記百景 その十二
古事記百景 その十三 古事記百景 その十四
古事記百景 その十五 古事記百景 その十六
古事記百景 その十七 古事記百景 その十八
古事記百景 その十九 古事記百景 その二十
古事記百景 その二十一 古事記百景 その二十二
古事記百景 その二十三 古事記百景 その二十四
古事記百景 その二十五 古事記百景 その二十六
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