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管理人物語 2

前回のいくつかの勘違い事例はいかがでしたでしょうか?
そんなことは知ってるよと仰る方には申し訳ございません。
私の周りには知らない人が多かったものですから、ついつい自慢したくなりまして、失礼いたしました。

さて、今回は若干のご要望もございましたので、物語を進めて参りましょう。


唐突ですが京都には見栄の文化がございます。その最たるものがこちらのお話し。


「あんた、お隣さんが門掃き始めはって、うちの前に『ごもく』があったら恥でっせ。表見てきておくれやす」
  ※門掃き=自宅前の掃除、ごもく=ゴミ
「はいはい」

あんたと呼ばれたご亭主はいそいそと表へ出掛けます。
何故ご亭主はいそいそと門掃きのされていない表へ出掛けたのでしょうか。
その秘密はお隣の御新造さんにございました。

いつも門掃きにお出ましになるお隣の御新造さんは匂い立つほどの別嬪さんで、見目麗しいお姿を拝見するだけでもその日一日が幸せでいられるというもの。
その御新造さんと少しでも話ができると思うといそいそせずにはいられません。ましてや良からぬことを考えてるとなると……。

「お隣の旦那さん、おはようさんどす。今日もええ天気でよろしおすなぁ」
「へぇ、御新造さんもおはようさんどす。それにしてもいつにもまして別嬪さんどすなぁ。いつもの着物姿もよろしおすけど、今朝のようなラフな服装もよろしおすなぁ、スタイルが際立つようでっせ」
「朝もはよからそないなてんご悪ふざけ言わはって、いややわぁ」
「根が正直なもんで、えらいすんまへん。それよりご主人と仲良うしたはりますか?」
「へぇおおきに、まだ新婚ですさかい毎日イチャイチャさせてもろてます。ああそうや、時々大きい声が出てしまうんどすけど、お宅で邪魔になってまへんやろか?」
「そんな艶っぽい声やったらいつでも歓迎ですがな。そやけど相手がうちのカミさんではなぁ」
「何を言うてはりますのん、奥さん大事にせなあきまへんやんか」
「あんさんみたいなカミさんやったら、そりゃ大事にしまっせ」
「そんなこと言うてはるとそのうち罰が当たりまっせ」
「あんさんと何とかなるんやったら罰でも罪でも当てたらええがな」
「また旦那さんはそんなこと言うて。奥様に言いつけまひょか?」
「うちの山の神は、それはそれは恐ろしいんでっせ、告げ口なんぞまっぴらどすわ」
「告げ口やなんて、毎日セクハラまがいの会話をしてますのやで、するんやったらもっと早うにしてますわ。それにそんな無粋な真似ようしまへんわ」
「こりゃキツイお叱りや。お詫びに今度一杯奢らせてもらいまひょか」
「それはよろしおすなぁ」
「一杯といわず何杯でも飲んでおくれやす。ほんでお酒の後も頼みますわ」
「旦那さん、うちを口説くんやったらもうちょっと上手にしてもらわんと」
「手当たり次第では埒があきまへんなぁ」
「その中のお一人に加えていただき、おおきに」
「こちらこそ、おおきに」

「ええタイミングで門掃き終わりましたえ。今日のお話しはここまでどすな」
「いつもご苦労はんどすな。ほなまた明日。ごめんやす」
「おおきに、ほなごめんやす」


とても早朝の会話とは思えないほどの艶っぽさですが、ここは夜に蠢く人が多い街・祇園。この程度の会話なら文字通り朝飯前というところでしょうか。
会話の間、御新造さんもお隣の旦那さんも手を止めることなく門掃きをしています。朝の楽しいひと時なのでしょうね。

なぜ劇中劇のようなこの話を書いたかと申しますと、玄関先にゴミが落ちてることを恥と見て臨家より先にゴミを片付けるのは京都の見栄文化の現れです。それが巡り巡って町内全体の門掃き文化になったりしています。そしてそれが町家の在り方だったりするのです。
残念ながら今では広い意味の祇園の一部と西陣の一部にみられる程度でしょうか。

翻って分譲マンションなどではどうでしょう。
私の知る限りなのでごく限られた範囲のことかもしれませんが、玄関先によほど大きなゴミでも落ちていない限り『共用部分の掃除はしてくれるんだから知らん顔』の住人の方々が多いようにお見受けいたします。
見栄とまでは言わないまでも玄関先に小さくてもごみが落ちていれば気になるものではないでしょうか。
私はこれを民度の違いと考えています。あるいは民族の違いか。それとも分譲マンションにお住まいの方は下を見ずに歩かれるのか。

たかが廊下に落ちているゴミですが、より美しく保つことで価値の低下を防げたりするわけですから分譲マンションにお住まいの方はその当たりをお考えになった方がよろしいのではないでしょうか。昨今の分譲マンション業界では買った時よりも高く売れるという異常な事態が起こっています。みすみす損をするような行為は慎まれるべきでしょうね。


先ほどの門掃き文化では他人の目を気にし、他人に迷惑をかけないようにし、しいては町全体で美観を保ち・・・と一定の水準を保とうとした結果、文化にまで高められたということではないでしょうか。

一方でマンションにお住まいの方はあまり隣近所という感覚を持ち合わせてらっしゃらないと考えています。
私自身も分譲マンションに暮らしておりましたが、お隣の方がどういう素性の方なのか存じませんでしたし、知るつもりもありませんでした。
もちろんお顔を合わせれば、ご挨拶はもちろん必要であれば立ち話もいたしましたが、それほどにプライベートに立ち入ってほしくないのではないかというのは私個人の見解です。

その点は管理人が一番気を付けなければならない点でもあります。


例えばアイドルの方が入居されていたとします。
余談になりますが私の管理するマンションにもそういう方面の方かもしれない方がいらっしゃいます。
その方は朝でも昼でも夜は知りませんが、雨の日でもサングラスをつけてらっしゃいます。常に帽子をお被りになり、夏場などはつばの広い帽子をかぶってらっしゃいましたしマスクもされていますので……いや、余談が過ぎました。

話を元に戻しますと、その方が何時にお出掛けになろうが、何時にお帰りになろうが、どなたかとご一緒にお帰りになろうが、管理人は立ち入ってはいけません。偶然にお顔を合わすことがあれば無視することはいたしませんが、最低限のあいさつ程度で引き下がります。

これはご入居者のプライベートをお守りするための管理人の行動です。
隠れて写真や動画を撮ったり、監視カメラの映像を転用したりすることはあってはならない行動です。
大衆紙や週刊誌にネタを提供するなどもっての外です。
いいお小遣いにはなるそうですが。

続きはまた今度。 ほなさいなら。


※本来管理人が知りえた情報を、許可なく第三者に漏洩させることは、
 もっともしてはいけない行為です。


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