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月の使者#ゴーショー②『ウーリーと黒い獣たち』

女王ルボン様が逃亡して、別の国で男を作った。

にわかに信じがたい現状ながらも、女王というしがらみから解放されたことへの安堵感から「別の自分になろう」と考えての行動かもしれない。少なくとも、”恋”というものを経験せざるを得ない年頃なのは間違いない。一国の王女である側面、ひとりの女性なのだ。

「逃亡だけにかぎらず、男を作る」という現状に、ルボン様の母君にあたる王女様は怒り心頭だろう。そう予想してはいたものの、あっけなく外れた。どうやら王女様の心持ちを安定させたのは、ルボン様の相手が持つ身分にあるようだ。詳しくは分からないが、相手もなかなかの身分を持ち合わせているとのこと。相当の権限を持つ者というのは、それ相応の人が傍に近寄ってくると迷信として語り継がれているが、あながち間違いではないようだ。

結果、王女様は「ルボンの様子を観察せよ」とのお触れを示し、現状維持を取った。ルボン様は周知していたかは分からないが、つねに監視の下で王女様へ報告が行くように体制を取っていた。

話しを整理しよう。

ルボン様は現在、ショウナーン王国へ逃亡。
その国で男を作る。男は身分が高く、ルボン様の母君は理解を得ている。

一見すると、ルボン様の無茶ぶりで悪い方向へ進むかと思われたが、おおむね良好。こうした幸運に恵まれるのもルボン様の才能だろう。闇の国リケーンの王女らしからぬ才能でもある。

さて…

1年、2年と月日は経ち、引き続き、ルボン様の経過を観察する日々が続く。が、事態は一気に急変する。そう、例の男と結婚したのだ。そして、男児を授かったとの報告を受ける。幸せの絶頂期を堪能するルボン様。同時にわたしはリケーン国の将来に貢献するため、さまざまな分野で勉学に励み、えんにも恵まれつつ王女様の側近に好かれて、それなりの身分を頂くことになった。ルボン様とわたしは人生を順風満帆に進めていたのだった。






突然の警報


今日の夕刻は雨が激しいらしい。リケーン国で有名な占い師が広める他愛のない噂話。ただ、予想以上に当たるため、意外にも住民には好評らしい。わたしの耳に入ったのも、そうした信じるに相当する信憑性を含むからこそ、広まった話だと感じた。たしかに昼過ぎから、城内の南側にはうっすらと黒い雲が重なり合って、こちらに向かってきているのが見えた。心ばかりか雲の中に稲光のようなものも見える。その時、わたしは「これは噂話以上に大当たりの話しだな…、早めに仕事は終わらせて身支度を整えねば」と思う。ただ、手元には積み重なる膨大な資料と各国の某大臣の個人情報が記された紙が立ちふさがる。くらいを上げるかわりに相応の働きを国は求めてくる。わたしは近いうちに、諜報員として隣国へ侵入するために教育は進んでいく。「なかなか目途めどがたたないな…、とりあえず、ターリキィ王国の資料には早急に目を通しておくか」とふと思った時、雨雲が見える方角の窓へ視界を向ける。

キラッ


雨雲の方角から一筋の光が、明後日の方向へ飛んでいくのが見えた。その光はぼんやりと、ただ目線を向けて確実に追えばハッキリと、光は若干の緑色を帯びているのが分かった。わたしの視力は遠くを見るには適している。この辺りも諜報員として必要な能力として買われているらしい。「あの光は何だったんだろう」と他愛たわいのない戯言ざれごとと思いつつ、わたしは手元の資料を片付けようと作業へ戻るのだった。


次第に、リケーン国を覆う雨雲。予想通り、いや予想以上に雨足は酷く、すぐに城内の石道は、流れる水で景色が一変していく。城下町の屋根も色濃く
塗られて、より一層、国そのものが暗い雰囲気に包まれる。




ザーーーーッ


途切れることのない雨音。時折、光る雲、鳴り響く轟音。
わたしは帰るタイミングを失った。けして城内で寝泊まりするほどの身分ではないため、城下町に一人部屋を借りている。その部屋に帰る算段を見失ったのだ。

「これは、どうしたものか…」

少しでも集中しようものなら周りの状況を見失うのがわたしの悪い癖だ。まさに自業自得。しょうがないので部屋の隅に置かれた椅子を並べて、その上で一晩を明かそうと考え、すぐに準備を始めた。




淡いランプの光は、一時いっときの時間を忘れるのに丁度いい。どれほどの時間が経ったのだろう。わたしは簡易的な寝床で眠りに入ろうとしていた。気づけば、虚ろ虚ろに瞼を閉じようとした矢先。

ガンッ!


城内の裏側に設置されている勝手口が開く音が聞こえた。わたしは咄嗟に飛び上がる。その扉を開く音は、あまりに暴虐で身勝手なほどに大きな音だったのだ。「何事だ!」とすぐさま軽装に身を包み、部屋から出て勝手口のほうへ向かった。ドタドタッと二人組の足音が聞こえる。その姿は、リケーン国の衛兵そのものだとすぐに気づいた。

「どうした!」

「はっ!!ゴーショー様!
 緊急ですので、女王様へ掛け合わせてください!」

深くかぶったフードを取り払うと同時に、水しぶきが廊下に滴り落ちる。あきらかに問題があったと言わんばかりに神妙な面持ちでこちらを見る二人。

「直接、女王の元へ二人を通すには、時間が遅すぎる。
 どういった内容か、聞かせてみろ」

わたしは、二人の迫りくる気迫に釣られてまくし立てる。
二人は一呼吸置いてすぐさま続けて、わたしにこのように告げた。


「ルボン様が…
 ルボン様が行方不明です!」



ビカッ!!


窓の外で轟く雷鳴は、わたしの驚く顔を鮮明に映し出すのだった。




続く…



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