レバー、ハラミ、コブクロ、タンを塩で2本ずつ。
なんにしたって「焼き鳥」が大好きだ。この文章、これだけで事足りる。なんにしたって焼き鳥が大好きなのだ。
夏。『うだるような暑さ』とはよく言ったもんで、天気予報が表示した「34℃」の文字を足りんじゃないのかと疑う。果たしてそれじゃ足りんじゃないのか。事実は48℃なんかだったりして、国を挙げてそんなこと言っちゃたまらんなんて魂胆をしめしめ隠しているんじゃないかしら。
読んで字のごとく “熱に浮かされた” 妄想話なんかどうでもいいのだ。サイファイの世界にゆらめく夢を観てしまうほどには、なかなかどうして暑いもんだ。困った。こういう時は、焼き鳥とビールに決まっていた。
旅は道連れ、世は情け。辞書が表す意には、『旅をするときに道連れがいると心強いように、世の中を渡っていくには人情をもって仲良くやっていくことが大切だということ』とある。旅は道連れ。夏の道連れは無論紛れもなく焼き鳥であって、そのお供は断じてビールだと決まっているでしょう。
アチチ、アチチと歩を進め、向かうは下北沢。あの店を目指す。駅より遥か徒歩7分。どこを切り取っても焦げ茶で、しみったれていて、どこか寂しくて、それでも誰もがほころんでいて。あの店を目指す。「焼き鳥屋」を想像する際、私にはあの店しかありません。名を『焼き鳥さかえ』という。
「どうも~~」とニヤつきながら、建付けばかり良い戸を右に滑らせた。
『あら、三浦くん。今日はひとり?』「うん、そうなんです。我慢できなくて」『飲兵衛だねえ。いつものカウンター空いてるよ』「やった~~!!」
席に着くなり「ビール!」の一声。もくもく煙立ち込める店内に『三浦くん、ビールひとつね~!』と、溌溂な声が響いた。これなんだよ。これこれ。僕ごときにゃあ、これしかありませんでして。
煙草に火を点けてニマニマしているうち、おばちゃんが僕とおんなじ顔してビールの一杯を運んできます。「うふふ、うふ、ありがとうございます」を淡い掛け声にして、堰を切ったダムよろしく麦の金色を流し込む。俺はあの刹那、確かに生きていた。直後「うめ~~~~!!!!」です。それだけです。
飯の一つも食わぬ空っぽの身として在った私、そりゃもう正しく焼き鳥を注文。メニューは見ない。「レバー、ハラミ、コブクロ、タンを塩で2本ずつ」の合言葉でもって、祭みてえな夜が始まるのだ。『いっつもそれだよね』「うめえんだもん」『はいはい、ありがとう』
味のことを四の五の言うつもりは無い。「言わずもがな」とは、このことを言うんでしょうよ。あとはあなた達が想像してください。店へ行ってみたら良いと思います。正直なことを言えば、あんまり混んじゃうといけないから教えたくないんだけども。
「あんまり混んじゃうといけない」は嘘だ。ビッグバンみたいな大爆発的激混みが起こったら良い。どんどん儲かってほしい。どんどん幸せになってほしい。灼熱地獄よろしきあの日とまったく同じ熱量で、私はこの店を一生応援したいと思う。夏、ビールと焼き鳥。決まっているのだ。この店に決まってらぁ。大好きだぁ。