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2008年11月1日に日経新聞夕刊に掲載したものに修正加筆したものです。 アフリカには巨大な"裂け目“がある。正断層で地面が割れ、急な崖がつながる「大地溝帯」は、南はモザンピークから北はエチオピアまで延びている。 地球内部のマントルの上昇流によって、1000万年前に始まったとされる形成は今も進行中で、遠い将来、アフリカ大陸を東西に分けるだろうとも言われる。 この地球規模の造形運動こそ人類の発祥と深く関わっているとの説がある。 溝の発生による大地の隆起は、森をサバンナに
2008年10月25日に日経新聞夕刊に掲載したものを修正加筆したものです。 1ヶ月前、登山家で知人の山野井靖史さんが奥多摩でジョギング中に熊の親子と鉢合わせた。 母熊に鼻と右腕をかじられ、あわや失明という重症を負ったが本人は「向こうだって必死なのだ。ぜんぜんうらんでいない」という。 大自然の猛威と偉大さに等身大で向き合ってきた山野井さんらしいと感心するとともに、野生動物の持つ潜在的な恐ろしさを身近に感じた出来事だった。 そんな折、来年アフリカで子供向けのキャンプの企画
2008年10月18日に日経新聞夕刊に掲載したものを修正加筆したものです。 先日、女子レスリングの浜口京子選手が右ひじの故障を抱えながらも、世界選手権で銅メダルを獲得した。彼女の精神力の強さに驚くばかりである。 僕自身、リレハンメルオリンピックに出場するまでには怪我を乗り越えなければいけなかった。 オリンピック選考会の一つ、ブラッコム(カナダ)での大会で大転倒して、右すねを強打し、緋骨と脛骨の間の筋膜を極度に炎症させてしまった。 スキーブーツに足を入れるどころか、足を
2008年10月2日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 ヒマラヤ遠征に行くと必ずといっていいほど体重が減る。エベレストの最後のアタック6日間で僕の体重は5㌔減った。 高所では低酸素により呼吸器・循環器が活発に動く。極寒のなか、体を温め続けるエネルギーもいる。長時間にわたる運動も伴い、いくら食事をしてもそれを補うことが出来なくなってしまう。 遠征後はズボンのベルトが緩くなって少し誇らしい気持ちになった。 帰国後、精密な脂肪率測定を行ったところ、ヒマラ
2008年9月27日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 最近、今年(2008年)の春に行ったエベレスト遠征を強烈に思い出すことが二つあった。 一つは、麻布十番で開催したエベレスト展だ。写真や映像はもちろん、現地で使った登山道具やキッチン用具、食べ物、通信機器などを展示した。 会場の一角にはミニチュアベースキャンプを作り、5ヶ月前まで使用していた鍋やテント、寝袋、通信用具などを並べ、エベレストのベースキャンプにいるのではないかと錯覚を覚えてしまう。
2008年9月20日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 北京では五輪に続いてパラリンピックが開かれた。僕は選手達には脅威と尊敬を感じる。 僕が所属する札幌のスキースクール「三浦雄一郎&スノードルフィン」に田中哲也さんという義足のスキーヤーがいる。 長野、ソルトレークパラリンピックの日本代表だ。彼は片足スキーでどこでも見事に滑り下りてくる。明るく憎まれ口をたたく彼に挑戦したのは3年前の正月の事だ。 彼と一緒に片足でテイネハイランド最難関の北壁コースを
2008年9月13日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 8月の中旬、僕は子供のアウトドアキャンプを飛び回っていた。 野外での自炊や、魚を取って食べたりしているうちに、子供たちはどんどん逞しくなっていく。最初は嫌がっていた魚のハラワタも指で書き出し、さばいて焼いて食べ得るようになっていた。 今年(2008年)の4月に生まれた僕の子供は、体重は2倍以上になり、寝返りができるようになった。 しかしキャンプで飛んだり跳ねたり、火を起こしたりする子供達を見る
2008年9月6日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 アスリートたちが熱い戦いを繰り広げた北京五輪が幕を引いた。登山だけでなくスポーツもする僕は双方の相違性を常に意識している。 僕は常々、登山とスポーツの向き合い方の違いは、スポーツは全力を出すことに意義があるが、登山や自然を相手にする時は、いかに自分に余力を残すかを考えている。 この考えは僕自身がスポーツに取り組む姿勢であり、登山に取り組む姿勢でもある。 しかし、北京五輪前に柔道48㌔級代表の谷亮
2008年8月30日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 7月下旬、順天堂大学・加齢制御医学講座の白澤卓二教授の下、長野県の斑尾高原で登山、食事、運動やレクチャーを含めたアンチエイジング(老化防止)についてのキャンプを行った。 このキャンプでもっとも印象に残ったのが、食事に関する白澤教授の講義であった。 白澤教授はアンチエイジングと遺伝子の関係について研究していて、この分野では日本の第一人者である。教授は研究のみならず料理教室や運動セミナーを開き実践的
2008年8月2日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 いよいよ北京オリンピックが開幕する。選手の躍動感あふれる演技や記録を伸ばすためにすべてをかけた瞬間は見ているものの心を震わせる。 祖父の三浦敬三はスポーツ観戦をこよなく愛する人だった。 2004年のアテネオリンピックの時、100歳になる祖父が応援と観戦を夜通し行っていたためいつも寝不足で目を赤くしていた。 しかし、オリンピックの話になると子供のように目を輝かして日本選手の活躍を楽しそうに話してい
2008年7月26日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 スキーというスポーツは温暖化の影響を直接受けるため、温暖化防止への啓蒙活動をスキーヤー、スノーボーダーが一丸となり、SAJ(全日本スキー連盟)が「I love snow」というキャンペーンを行っている。 そのキャッチフレーズが「温暖化によって確実になくなるスポーツがある」である。 今年(2008年)2月、福島県の猪苗代で開いたフリースタイルスキーのワールドカップで、京都議定書で日本に課せられた温
2008年7月19日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 前回の話で、父の心臓の手術を担当した先生によるドクターゴーがエベレスト登頂の励みになったと話した。 この事を帰国後、筑波大学の村上和雄名誉教授と話す機会があった。村上氏は高血圧に関するレニンと呼ばれる酵素を世界で最初に発見し、稲の遺伝子情報の読み取りを行ったことで有名な研究者だ。ユニークなところは、ただ単に遺伝子の研究を生物的な学問に留めず、僕たちが抱く様々な感情や考えることが遺伝子に影響する
2008年7月12日に日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。 父・三浦雄一郎は心房細動という不整脈を持っていた。これは通常の10倍近い頻度で電気信号が心房内に発生し、心房を細かく震えさせ心臓の収縮を阻害してしまう症状だ。そのために運動能力を低下させたり、心房内の血液がうっ血し血栓を作りやすい状態になってしまう。