ナイちゃんの華麗《カレー》なる人生の記録 第8話
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「ニトログリセリンを使ったのは間違いではなかった」
「いや、明らかに間違いだったと思うけど」
わたしたち家族のお店――「伊丹さんちのカレー屋さん」本店は跡形もなく、とまではいかないけど、それなりに爆発の被害があった。
幸い、店の立地は家が密集している地域ではなかったため、被害は「ひとつの家」だけで済んだのだ。
金沢中のニュースにはなったけど。
だから、わたしたち双子は自宅の調理場で慎重に調理している。
「次にニトログリセリンなんて使ったら許さないから」
「了解よ、アルちゃん。でも、あの爆発を口の中で表現するにはどうしたらいいと思う?」
わたしはインスピレーションを働かせる。
そしたら、あの「パチパチ」のイメージが……。
「……パチパチする飴でもなめてみたら?」
「それだっ!」
ナイはパチパチする飴を購入し、実際に口に入れた。
「なるほど。感覚はわかったわ。あたしたちはこれをめざすのよ」
「どうやって?」
「実際に、この飴と同じ原理のカレーをつくってみるのよ。とにかくやりましょう、やってみましょう!」
わたしたち双子は三週間かけて、まったく新しいカレーをつくった。
「できたっ! 完成、爆弾カレーっ!」
「爆弾カレー?」
「そう。あたしたちのオリジナルカレーよっ!」
「うーん、ちょっとひねりが足りないんじゃない? ボムカレーってのはどう?」
「そうね、アルちゃんの言う通りだわ。ボムカレーにしましょう」
こうしてボムカレーは誕生した。
――伊丹家の家族でボムカレーを試食するときが来た。
「これがナイちゃんとアルちゃんの……」
「いいえ、母さん……わたしはナイちゃんのサポートをしただけ。実際に一からつくったのはナイちゃんよ」
そう、これはホントの気持ちだ。
ナイちゃんの今までの出来事を考えればナイちゃんひとりだけで考えてつくったようなものなのだから。
「ありがとう、アルちゃん」
ナイは微笑んだ。
「では、いただきましょう。さあ、父さんも」
「ああ」
両親がボムカレーを一口食べる。
『これはっ!』
一口入れた瞬間、パチパチ弾けるからさを二人は感じた――。
『――からうみゃゃゃゃゃあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっいいいいいっっっっっ!』
二人は舌がパチパチ弾けておかしくなってしまった。
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後日、ナイちゃんが亡くなる二日前にボムカレーを伊丹家で販売することになった。