義肢のヒルコ 第13話
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「日本はね、強者が残り、弱者が消える……そんな国。表向きは強者と弱者が共存しあう国ということになっているけれど……今の崩壊した世界で、そういう表面だけの馴れ合いなんてものは続きやしないの。……あたしたちの母親が亡くなってしまったとき、真っ先に修行から逃げ出して葛原を出て行った……そんなあなたに生きる資格なんてないのよっ! それはクズ葉……あなたがよくわかっているんじゃないの?」
「――!」
姉である青花の問いに対して妹である青葉ちゃんは、己のふがいなさに絶望するしかなかった。
「そういえば、あなた……皆神蛭子を海岸で見つけたそうだけど、海岸は悪神が現れる危険領域じゃない? どうして……あなたは海岸にいたのかしら?」
「…………」
「そう。あなたはそうやって黙ることで逃げてきたものね。今まで、ずっと。……なら、その答えを言うわ。あなた……死ぬ気だったでしょ?」
「…………」
「悪神を利用して死ぬ気だったのでしょう? 本当にクズ葉らしい理由だわ。まさに弱者に相応しい発想ね。でも、残念。クズ葉が死ななかったなんて。あなたが死んでも悲しむ人なんていないのだから。あなたが死んだら高らかに笑ってあげるわ。『あーっはっはっはっ!』……って」
『あーっはっはっはっ!』
同級生らが青花の真似をして高らかに笑った。
「……!」
「そんな顔をしても無駄なのよ。あなたの罪は決して消えない。葛原の家を出て行ったこと、一生……後悔させてやるっ! あたしがっ! どんな思いでっ! 修行に耐えてきたことも知らないでっ! いいこと? あたしの苦しみは、あなたの人生をかけて絶対に償ってもらうわっ!」
青花は、ぎゅっと握りしめていた胸倉を利用して、青葉ちゃんを思いっきり教室の壁に向かって、たたきつけようとする……が――。
「――やめろ」
俺が青花の手首をつかんで止めた。
「やめるんだ。こんなことをしても、なにも変わりはしない」
「なにも変わりはしないですって?」
「そうだ。それは青花ちゃん自身が一番わかっていることじゃないのか?」
「――! ……なによ。全部あたしが悪いってこと? クズ葉が修行をすっぽかして、お母さんのところへ逃げ込んでいたことも、お母さんが亡くなってからクズ葉がいなくなって修行のしわ寄せが全部あたしのところへ来たことも、全部あたしが悪いの? だったら、あたしはなんなの? 逃げ場所がなかったあたしはなに? あたしはどうしたらよかったの?」
感極まった青花は、俺と青葉ちゃんに想いをぶつけた。ありったけの想いを。