ナイちゃんの華麗《カレー》なる人生の記録 第11話
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でも、こんなことを言っても変わらないのが人間だ。
『たぶん、わたしたちは繰り返す。同じ過ちを何回も、何十回も、何百回も、何千回も、何万回も。何億回だって繰り返すかもしれない。ナイちゃんのようにボムカレーのような形に残るような存在をつくって死んでしまうのも人生のひとつのあり方なのかもしれない。だけど、そんなあり方、悲しいでしょ? せっかくの人生だし、もっといろいろやりたいじゃない! 自由になりましょう。いい加減、目を覚ませ世界! 世界平和! ラブ&ピース!』
ありったけの感情で声を張り上げる。
『これもひとつの爆弾だ。これだけじゃ全部は変わらない。それでも、わたしたちには文字がある。言葉を発せる。「文法が正しくない。言葉として間違っている」。そんなことを言う人たちがいる。でも、そんな言葉を聞いて自分を押さえつけるのはもったいない。ため込むな。吐き出せ。あるものすべてをぶつけろ。この映像を見ているカメラの向こうの人たちだけでも』
伝わらない、かもしれないけど……言わなきゃいけないと思ったんだ。
『以上でボムカレーの誕生秘話についての発表会を終わります。ありがとうございました』
「ピッ」とテレビを消す母。テレビの映像が消えた後、わたしを見つめる父。
「すまなかったと思っている」
「…………」
「すまなかった」
父は謝った。わたしに向かって。
「言い訳はしない。俺たちは間違っていた」
「……ごめんなさい」
母も謝った。わたしに向かって。
「ごめんなさい」
ごめんなさいしか言えないほど、母の顔は……。
「……すまなかった、ごめんなさいで済む問題じゃないでしょ」
わたしは父の表情を見る。彼の口は震えていた。その様子を見ているわたしは悟った。
「さて、なにか言いたいようだけど、それはなに?」
「昔話をしよう」
「昔話? なぜ?」
「言わなきゃいけないことだと思ったんだ。なぜ『伊丹さんちのカレー屋さん』が昔、弱小カレー屋として活動しなければいけなかったのかを」
父は口を開く。
「『華麗《カレー》仙人《せんにん》』というお店を知っているよな?」
「ええ。あの金沢カレーのルーをさらにドロッとさせた仙人《せんにん》ルーで金沢カレーの歴史を塗り替えたと言われる、あの仙人《せんにん》カレーのお店でしょ?」
「ああ。あれは父さんのアイデアなんだ」
「……どういう意味?」
「仙人カレーの店主は父さんの同級生、そしてライバルでもある。俺はあいつにアイデアを盗まれた」
「盗まれた……?」