キミが存在しないラブコメ 第36話
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海に浸かっていた僕の目の前に、黒と紫の配色の髪を持つ、足が透き通る少女が現れた。
――これが《影》なのか?
早速、模擬戦のように妄想で作成された天叢雲剣を装備して、戦闘態勢に移ろうとするが……。
「えっ、なに、剣、どうして、あたし、別に、戦う気なんて、ない、のに」
ちょっと、たどたどしい感じの声を発する少女。
敵意がない?
「キミは《影》じゃないのか?」
「えと、あの…………影って、なんのことですか?」
《影》について知らないということは一般人か。
いや、一般人じゃない。
足が透き通るように見えない……もしかして。
「幽霊、なのか?」
「はい、たぶん、そう、だと、思います…………足が、透けているので」
妄想で作成された剣が見えているということは、つまり霊気が見えるということ。
本物だ……。
「幽霊さん、《影》について知っている?」
「影って、物体が光をさえぎったとき、光と反対側にできる黒い形の、あの影のことですか?」
「そんな辞書みたいな情報を訊ねているわけじゃないよ」
「す、すみま、せん…………」
「謝らなくていいよ」
「そうだ。キミって生前の名前とかって、あるよね……?」
「…………あり、ます。あたしの、名前は…………心野友代と…………言い、ます」
「こころの、ともよ……なんか、まるで、どこかのネコ型ロボットが出てくるアニメのガキ大将が感動したときに言う台詞みたいだね」
「なん、ですか…………それ」
「いや、なんでもない……忘れて」
「あなたの名前は?」
「僕は神憑武尊。これから《影》と戦う予定の戦士になる予定の者さ」
「その、影というのは、なんですか? 戦士とは…………?」
「《影》は人を襲う通常の人には見えない化け物のこと。《影》が見える人たちは、このS市を守る戦士となって戦うんだ」
「そんなことが、この世界には、あるのですね…………」
「ところで、神憑さんは、戦えるの、ですか?」
「いや、まだ……今日、その戦士になったところだ。だから、まだ万全じゃない」
「そう、なん、です、ね…………」
「じゃあ、あたしのことを匿ってくれませんか?」
「匿う?」
「はい…………あたしは《影》のことさえ知らない、ただの、幽霊です。もし、あたしが《影》に襲われたら、どうしようもできません…………」
「そうか。じゃあ僕の家においで。なにか困ったことがあれば、僕のそばから離れないでくれよ」
「わかりました。ありがとう、ございます…………では、あたしを、あなたの家に連れていってください」
「うん、いこう」
こうして心野友代は僕と一緒に行動するようになった。
だけど……どうしてかは、わからないけど、友代から真海奈の印象を感じてしまうのは、真海奈が亡くなった、あの海岸に友代がいたからだろうか……。