義肢のヒルコ 第19話
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一方、青花は嬉々とした表情で監視画面を見守る。
「残念ね、青葉。ちゃんとあなたの中にも魂はあったのよ。でも、あなたはそれを知ることなく死んでいく。そして、あたしは完全な青龍魂を持つ魂生師になる」
青葉が今まで受けてきた仕打ちは、青花が仕組んだことだった。
「あたしたちは世界に干渉できる能力を持つ。あたしは青葉の精神を破壊するために呪術を使用した。青葉を否定するようにお願いしたの。呪術をこの世界の人間にかけたら誰でも青葉のことを否定する。あたしたちは普通の人間より文字通り階級が上なのよ。だから、あたしは青葉が本当の青龍魂の持ち主であると気づいていた」
長い旅が終わったような心地がした。
「あたしたちは双子だった。だから、あたしは青葉の青龍魂《せいりゅうこん》につながることができる。青葉ちゃんは自分の力の使い方を理解してない。むしろ理解できないようにさせて、青葉自身が『非魂の巫女』であると思わせてやったの。それがあたしの狙い。それがあたしの復讐なの」
母のことを思い出す。
「あたしたちの母――先代の葛原青葉《あおば》が死んだとき、あたしは青葉の中の青龍魂の力が活発になることを感じた。つまり、青葉が死んだら……あたしの中に青龍魂が宿るのではないか? そう思い、あたしは青葉の精神を破壊し、自らの命を海へと放り出させる……そんな計画を練った」
不敵な笑みを浮かべる。
「ふふ。青葉……あなたは昔、『海が好き』と言ったわね。よく『海の向こう側に行きたい』と。その願いをかなえてあげましょう。海の向こうは死の世界よ。あなたがどんな思いで海へ行きたいと言ったのかは知らないけど。……ああ、もしかしたら……そのころから死にたがっていたのかもしれないわね。あたしの呪術に気づきもしないで」
勝ち誇った顔で言う。
「さようなら、青葉――」
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――海岸にて。
「……ああ、そういうこと……なんだ。青花お姉ちゃんは……嘘をついていたんだね」
しんみりと青葉ちゃんはつぶやく。
「ここは悪神が現れる危険領域。青花お姉ちゃんはわたしに死んでほしかったんだ」
青葉ちゃんは目の前のサメ――悪神を見る。
「悪神さん……ありがとう。わたしを魂のある人間だと認めてくれて。これでわたしは心置きなくこの世を去ることができます」