キミが存在しないラブコメ 第63話
*
椎菜さんの心臓が《影》に貫かれていた――なぜだ?
《回復》能力と《霊化》能力を同時に使用していたはず。
攻撃なんて当たるはずがないのに。
攻撃が当たったとしても回復するはずなのに。
「オオアナムチ! スクナビコナ!」
医療をつかさどる神である、二柱の神を顕現させることで椎菜さんの完全回復を狙う。
「《森林》能力、発動!」
御琴によってフィールドが木々に覆われる。
《影》を木々で拘束する。
「《烈火》能力、発動!」
拘束された《影》を燃やす紅炎の弾が放たれる。
「紅炎弾!」
《影》が紅炎のによって燃やされ、消滅していく。
「椎菜さん、大丈夫?」
「…………うん、なんとか」
傷が完全になくなったことを確認した。
「まだ…………《影》がいるよ」
「えっ?」
《影》の反応を捉えるセンサーが百体以上いることを示す。
「私、役立たずでごめんね…………おそらく今、出現している《影》は《回復》も《霊化》も無効化するみたい。ただ、神の能力による治癒は大丈夫みたいだね。私がいても無意味だから《機関》に戻るね」
「ああ……しっかり休んでね。転移術式、発動…………あれ?」
転移が、できない……?
「おそらく転移もできないようになっているみたいですよ」
「そんな……じゃあ、椎菜さんは……」
「戦うしか、ないですね」
「…………」
椎菜さんは回復にエネルギーを使っている。
彼女は万全じゃない。
なら、守りながら戦うしかないってことか……。
「ごめんね、役立たずで」
「いや、なんとかするよ。とにかく、みんな……《影》との戦いに挑んでいこう」
『了解!』
《影》に《回復》も《霊化》も通じないなら、命を削り切る攻撃で対抗するしかない。
「ニギハヤヒ!」
空の神であるニギハヤヒを顕現させた。
「みんな、空中浮遊するぞ!」
ここにいる《機関》のメンバーが全員、ニギハヤヒの能力で浮遊した。
「空からなら《影》の攻撃は当たらない! 御琴、萌瑠、やるぞ!」
『はい!』
「《森林》能力、発動!」
ここにいる《影》を全員、木々で拘束する。
「カグツチ!」
「紅炎弾!」
神火と烈火の炎で森を焼き尽くした。
「これで、ここにいる《影》が全滅したはずだが……まだ、いるのか……?」
気配は感じない。
だけど、瞬間的に彼女が現れる。
「ツクヨミ」
ツクヨミと唱えるだけで、僕と僕に同化している友代以外の《機関》のメンバーが大ダメージをくらった。
「オオアナムチ! スクナビコナ!」
瞬時に回復させる。
「どうして、そいつらを庇う?」
《影の女王》――ヴィジョン・マインディングが、この世界に顕現した。