キミが存在しないラブコメ 第22話

起きた。準備を整えよう。

朝食を食べ、歯磨きをする。

ひげのようなムダ毛は全部、る。

桜舞の言うとおりに少しだけ、おしゃれに気を遣ってみる。

髪はワックスをつけて整えていく。

できるだけ、今どきのヤングを意識した格好でいこう……いい感じだ。

ヤングだけど、普段がヤングっぽくないのは、これから気をつけよう。

荷物は軽めにして、カジュアルっぽく全体を見栄えよくして。

これで準備はできた。あとは出かけるだけ。

「じゃ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい、兄さん」

桜舞に見送られ、家を出て、指定の場所まで行く。

目的地は伝播町の時計塔だ。

僕らの住むS市は田舎と都会が混在した市である。

僕と桜舞が住んでいる町は初凪町はつなぎまちといって伝播町とは反対の方角にある。

初凪町は住んでいる人が少ない――伝播町とは対極の町だ。まさに田舎であると言えるだろう。

まともに遊べるのはS市には伝播町くらいしかないのだ。

だから、子どもたちは決まって伝播町で遊ぶか、家でゲームをするかくらいしか選択肢がない。

半島の先端にあるS市は家の目の前に海が見える。辺り一面が青に染まっている。つまり、漁業が盛んであったりもするのだ。

夏になると海水浴を楽しむ観光客が現れる。

海に潜ると海水の塩が目に入って痛い思いをする。そんな海が当たり前のように存在する。

S市の環境に興味を持って移住したりする人たちがいるが、それはS市の人間が、どういう人間かということを理解できていないのだ。

S市は伝播するように噂が広まりやすい市なのだから、プライベートはないと思っていい。

――いずれ僕は、この町を、この市を出ることになるかもしれないのだろうな。

そのことを毎日のように思っている。

――伝播町の時計塔に着いた。

朝の十時に、ふたりと待ち合わせの約束をしている。

……三十分前か。少し早く着きすぎたな。

時計塔には、人、人、人……とにかく人が、あふれている。

――人は苦手だ。気持ち悪い。だけど、異性に対しては、それなりの欲を持っている自分は、さらに気持ち悪いと思う。

どうして僕は性欲なんて無意味なものを持って、この世に生まれてしまったのか?

出してしまえば、それで終わりなのに、どうして毎日のように白濁液が量産されなくてはいけないのだろうか……本当に無意味だ。

僕は自身を結婚する資格がない人間だと思っている。

それだけは絶対的な確信がある。

僕のような病人の遺伝子が、この世界に永遠に残ることはありえないのだから。

だけど、どうして僕は、ふたりの女の子と遊ぶなんて陽キャラみたいなことをやっているのだろうな……果てしなく矛盾を感じる。

そう思っているうちに、一人目が来た――。

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