ナイちゃんの華麗《カレー》なる人生の記録 第4話
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わたしたちの心はつながっていた。
双子だから、かもしれないけど。
だけど、酒癖の悪い父が頼りにならない現状でもカレーをつくらなければ生きていけない。
酒癖の悪い父に代わって、わたしとナイは様々なカレーの知識を母から叩き込まれた。
経営が困難なときには、わたしたちは、こっそり母の手伝いをした。
そのときでの、すべてのカレーの知識は、わたしたちの心の中に育まれた。
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そして、十年の時が流れた。
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「あたし、高校をやめる」
それは、わたしが高校で入学式に参加した直後の……夕方の話だ。
「なにを言ってるの、ナイちゃん?」
母がそう言った。
「バカなこと言わないで。まだ入学して一日たったばかりでしょう」
「バカなことではないわ。もう体は限界なのよ」
そう。
ナイは金沢の最先端医療技術のおかげで十年間かろうじて無事でいられたのだ。
だけど、ナイがわたしに対するいじめを引き受けて十年、体はガタが来ていた……そのときのわたしたち家族は気づいていなかったけど。
痛みはなくとも体に蓄積されたダメージが残っている事実に誰も気づかなかったのである……ナイ自身も。
身体的な痛みは感じられなくても精神的な痛みを受けているナイは、本当にもう限界を迎えていたのだ。
「高校をやめてどうするつもりなの?」
「それはね、母さん、あたしはカレー屋さんになるのよ」
「カレー屋さん?」
「そう。あたしは『伊丹さんちのカレー屋さん』を引き継ぐ。父さんに代わる新たな店主になるの」
「そんな……まだ十五歳よ。早すぎる」
「人生に早すぎるはないわ。決断したときが始まりよ。それに……借金をなんとかしなければならない」
「そんなことを考える必要ないのよ。まだ子供なんだから」
「よく言えるよ、そんなこと。あたしを見捨てたくせに。世間体を気にするあんたたちのもとで生まれたあたしに、ひとつも優しくしてくれなかったくせに」
「なにを言ってるの? あなたを家族として受け入れている。それだけでもありがたいと思いなさい」
「本当に愛していないんだね、あたしのことなんか」
ナイは頬に涙をこぼしながら。
「あたしが普通じゃないから、そんなことが言えるのね。あたしが親孝行をしようとしているのに。借金をなくそうとしているのに」
「金沢の最先端医療技術を施しているのが優しさよ。感謝しなさい。借金をしながらもね」
「ええ。だから『人生最大の親孝行』をさせてちょうだい。あたしの人生をかけて――」
――その日の夜。