義肢のヒルコ 第14話
☯
「こんな世界に生まれてこなければよかった。だって、きついんだもの。苦しいんだもの。あたしの心は擦り切れてボロボロよ。魂をちぎって魂珠をつくることにも限界なのよ。あたしは、ただの装置。この世界の歯車にしか過ぎない。だけど、あたしは強者だ。強者だけど、強者の中の弱者のね。この世界を管理する奴らよりは下かもしれない。だけど、この世界の魂装師よりは上に立つことができる。これはあたしが逃げなかった結果。逃げたクズ葉には一生、手に入れることができない。だから一生、後悔しなさい。これはいじめではないの。クズ葉の行動に対する報いなの。……どう? あたしの気持ちが理解できる?」
心に秘めた思いをあらわにする。
「クズ葉、いいことを教えてあげるわ。あなたは危険領域に行っても死なないの。だって、あなたに魂があるわけないもの。だから『非魂《ひこん》の巫女』なのよ。だから安心しなさい。安心して海へ向かうといいわ」
青花は心の中からあふれる醜い感情を顔に出しながら。
「じゃあね、クズ葉。それと皆神蛭子。葛原青葉には近づかないことね。あなたに葛原青葉の人生を背負うなんてこと、させたくないもの。すぐに陰陽院の生徒たちが住んでいる寮へ案内してあげる。『青葉イキン』も撤回よ。悪いことをしたわね。……さようなら」
葛原青花は去っていった。
振り向きもせず、颯爽と。
☯
「……わたし、知らなかったな。青花お姉ちゃんが、あんな思いを抱いていたなんて」
青葉ちゃんは教室の中では閉ざしていた重い口を開いた。
その理由は、ここが青葉ちゃんの住んでいるアパートだからである。
「わたし、気づかなかった。わたし、いつも自分が中心だったの。自分だけで手いっぱいだった。だから、青花お姉ちゃんがうらやましかったんだ。だって、褒められるのはいつも青花お姉ちゃんだったんだよ?」
青葉ちゃんは自分のアパートにいる俺に向かって自身の思いをさらし始めた。
「わたしはお母さんに甘えていたんだ。お母さんに甘えれば、お母さんが守ってくれる。魂珠をつくる修行もしなくて済む。だから、なのかな? わたしが『非魂の巫女』である理由は。修行をしても結果は出なかったけど、それはわたしの心が怠けていたせいだったんだ。青花お姉ちゃんにあんな思いをさせたわたしが悪いんだ。わたしはどうしようもないクズで怠け者で自分の世界に閉じこもっていた。わたしは青花お姉ちゃんを助けることができなかった」