義肢のヒルコ 第10話
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青花は自慢げに貧相で真っ平らな胸をぐっと張る。
(出来の良さ……ね)
そう思いながら俺は青花の体を凝視する。主に胸を。
「……なあに?」
青花は俺の態度を見て、ははーん……と、勝手に理解する。
「あたしの洗練された体をじっくり見ようとするなんて……生意気なのよ」
尊大な口調とは裏腹に、青花の言葉には照れがにじんでいた。
「まあ、いいわ。あたしの魅力に惹かれるような人間は、この陰陽院にはごまんといるんだからっ! あなたはそのうちの一人として数えておくわ」
「なんてみみっちい女」だと俺は思った。
青花は気を取り直すように、すぅ……と、息を整えて。
「……こほん。本題に入りましょう。なぜ、あなたが『非魂の巫女』である葛原青葉に近づいたのかを……ね?」
俺は愚問だなと思いながら笑った。
「俺は彼女に救ってもらったんだ」
「あなたが? 救ってもらった? あの『非魂の巫女』に?」
「そうだよ。俺は葛原青葉に救ってもらったんだ。なっ!」
俺は青葉ちゃんを見る。
ざわっ……と、ほかの生徒たちが言った。
「なにもできない……あの『非魂の巫女』が?」
「いったいどんな術を使って皆神をたぶらかしたんだ?」
「術なんて使えるわけねーよっ! あの落ちこぼれのクズ葉《ハ》だぜ?」
言いたい放題である。
「……はあっ?」
青花は俺に苛立ち、つっけんどんな表情を青葉ちゃんに向けた。
「クズ葉が、あなたを救ったですって?」
「青葉……ちゃんだぜ、青花ちゃん」
にかっとした表情で俺は言った。
「気絶して海に流されて死にかけていた俺を青葉ちゃんが救ってくれたんだっ! この広輪京で、陰陽院で、生きていること自体が、青葉ちゃんが俺にもたらしてくれた奇跡なんだぜっ!」
「海に流されたですって?」
顔をしかめながら青花は思考する。
気絶している人間に対する応急処置。それは――。
「――まさか、人工呼吸をしたってことなの? 皆神蛭子とクズ葉が接吻?」
わなわなと青花が震えだす。
「……あなたたち、破廉恥だわっ! 神聖なる陰陽院の近くで、なんて汚らわしいっ! 葛原の恥さらしめっ! ……クズ葉っ! あなた……形式上はあくまであたしの妹ということになってるのにっ! ほんとにクズで淫らで出来損ないのゴミなのねっ!」