江戸と東京と普通の東京と普通以外の東京と
あたしは東京都中央区が好きなんじゃない、旧東京市日本橋区が好きなんだ。
何が好きかって?
普段は『いなたい』『昭和レトロ』を何よりも愛してるのに、旧日本橋区エリアではそれらが目に入らない。
現東京都中央区の北側エリア、つまり旧日本橋区エリアでは、江戸時代、明治、大正レベルの古いものが現役でたくさんある。
それでいて『古都』とか『格式』みたいな気取ったとっつきにくさのない、親しみやすさと品の良さを兼ね備えたカジュアルな生きた歴史資料が、今どきのビルの隙間を縫うようにゴロゴロあって、昭和レトロな店ももちろんあるにはあるんだけど、それらに手が回らないくらい、もっと古くて素敵なものたちに夢中になる。
フラフラ歩いてて、偶然に歴史資料的なアレコレを見つけたりできるのがたまらなく居心地が良い。
図書館に向かう途中に谷崎潤一郎の生家跡の書割を偶然見つけたり、幹線道路の分離帯をよく見たら両国広小路跡だったり。
実際の現在の旧日本橋区薬研堀町(現中央区東日本橋)には、薬研堀不動院とその参道があるだけで、七色唐辛子激戦区の面影は無い。
でも、老舗の七色唐辛子屋と、パキスタン人のスパイス問屋と、中国スーパーが立ち並ぶ世界線の『現在の旧日本橋区薬研堀町』なんていう歴史のifを想像するだけですごくワクワクする。
旧東京市日本橋区はそういう遊びが楽しい街だ。
ある日、東京に住むことにしたという神戸出身のミュージシャン女子と、馬喰横山駅周辺で遊んだ。
荻窪にひっこしてきたばかりの彼女はその時ポツリと
「ここは普通の『東京』とは違うね」
と呟いた。
それを聞いたあたしは
「普通の東京って何だろう?」
って考えた。
そして地方出身者にとっての普通の東京というのは、どうも椎名林檎の曲や大槻ケンヂの小説に出てくる地名の街が普通の東京なんだとそのとき気づいた。
確かに言われてみれば、あたしも地方から出て、ずっと新宿より西で住んだり遊んだりしてたから、東京出てくるまでは、御茶ノ水より東は千葉って感覚で生きてて(『丸ノ内サディスティック』だと最東駅が御茶ノ水)
そのことを久々に思い出した。
確かに地方の子にとって、銀座、麻布はオカネモチでオシャレすぎるし、上野、浅草は大正ロマンの世界で、日本橋だの薬研堀だのは時代劇でしか聞かない。
そしてディズニーランドとドイツ村と町田は東京ではない。(注:明治26年まで町田は本当に名実共に神奈川でした)
つまるところ、丸ノ内線と中央線、あと副都心線の一部が、平成〜令和時代の地方民から見た『普通の東京』ということみたい。
で、そのときはじめて気づいた。
あたしはどうやら『東京』より『江戸』の歴史が好きみたいだって。