貧民と旧家の娘は恋より先に性を知る
あの人と私は、普通に『親族の一員』としてならば、普通にお互いを好きだったとは思う。
私たちの間柄は『親同士が決めた許婚』だった。
そのことについて、あきらめの気持ちも混じりつつも
「本当は香港映画スターか向かいの高校のイケメンと結婚したいけどきっとそれはまぁ無理だしあの人もあの人の親も優しいから悪いようにはならないだろう」
としか思っていなかった。
だけど私は、処女のまま結婚することも、あの人に処女をあげるのも、あの人以外の男を知らないまま一生を終えるのも、彼氏を作ることもできない将来も、想像するだけで本当に耐え難いことだった。
結婚する前に、何としても絶対に処女を捨てたい。恋愛できなかったとしても、せめて処女だけは今日にでも捨てたい。
平成もとうに何年も過ぎているというのにあまりにも時代錯誤な『親同士で決めた許婚』という運命に、たった一つだけ、今時の女の子らしいビッチめいた反抗を成し遂げたかった。
今日にでも、チャンスさえあれば、犬にでもくれてやろう。そんなときに私を高校生だと思ってナンパしてきたのが、10歳年上の灯台守だった。
「去年までランドセル背負ってたの? 絶対それ嘘でしょ!」
灯台守は、頑なに私を高校生だと言いはったが『今やっている数学の課題』が『連立じゃない方程式』だと言ってやっと私が中学1年生と理解してくれた。
自分の中指で処女膜は貫通済だったけど、男の肉体そのものを知らなかった私にとってはまたとないチャンスだった。
「今だ!」
さっさと場末のホテルに連れ込まれることにして、さっさと服を脱がされ、さっさと挿入された。
私の人生において最も邪魔だったものを捨てられたことによって本気で安堵したけれど、灯台守の男は優しくて、私と今後も交際したそうだったのを見て、私はとても心配になった。
当時の私はスクールカースト最底辺だったので、優しい灯台守が私と交際することで会社でいじめられはしないかと四六時中心配していた。
私の不要品を押し売りしただけの男は、それでも結構私に優しかった。
その後も何度かデートしたけれど、あまりにもそのことが心配すぎて怖くなって、灯台守の携帯番号を書いていた手帳をベランダで燃やして捨てた。
捨てた後もしばらくは、灯台守があたしとセックスしたことが原因で、会社でいじめられていないか心配していたけれど、あまりにも心配しすぎたせいで、名前も顔も忘れてしまった。
先方から婚約破棄を申し出てきたのは、中学2年生の夏のことだった。
「お前、俺と結婚するのと、レースクイーンの姉ちゃんができるのと、どっちがいい?」
「レースクイーンの姉ちゃん!」
物心付く前から決まっていたはずの私の運命は、当人同士で話し合いのたった2秒で、あっさりと円満に終わりを告げた。
あの人が選んだ相手は、私とは正反対の、年上で身長の高い女の人だった。
その後、諦めきれなかった双方の両親は、あの人の弟との縁談も持ちかけてきたけれど、顔合わせの間互いに一言も口を利かなかったことで、親同士もやっと諦めがついたようだった。
恋愛という新しい希望と、破れ去った処女膜を手に入れた私は、憑き物が落ちたかのように性への興味を失った。
その後何故か急にモテ出して、彼氏という存在が常にいた生活をしていたけれど、私がはじめての恋に落ちるのは、それから実に7年も後の話なのであった。
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