男は優しく髪を撫でる。
可愛い、綺麗だ、愛してる。思いつく限りのロマンティックな言葉を、目を細めながら愛おしそうに囁いている。
こういうスタイルのプレイは別に嫌いじゃない。それにこの人は無茶も言わないし金払いも悪く無い。だけど……
瞳を覗きこまれながら、優花は居た堪れない気持ちになる。
開脚ポーズで拘束されたり、ボールギャグでよだれを垂らすような卑猥なポーズへの恥じらいは『とても楽しいお仕事』だけど、瞳を覗きこまれながら愛を囁かれるのは、恥じらいよりもまず警戒が勝つ。
―もうこの人とも距離とったほうがいいなぁ。折角お気に入りのお客さんだったんだけどな―
劣情と悦楽をかきたてるのが娼婦の仕事と言っても、たまの気まぐれで、恋人のように甘く、優しく、ロマンティックな演出でそれっぽいセックスすることくらいはある。
ちょっとした『いつもと違う刺激』か、あるいはとても怖い夢を見た次の日には。
だけどこういうプレイを5回以上続けてしてくるお客は危険だ。
近いうちに真剣な交際か、あるいは結婚を申し込んでくる。
―あぁ嫌だ。また壊してしまった―
優花は努めて事務的に延長のリクエストをお断りして、そのまま晃一の部屋へと向かう。
「またやっちゃったの? 駄目だよー、せめて目隠しくらいは義務づけないと、またお客さん溺れるよ」
晃一はため息をつきながら、優花にミルクティーを差し出す。
「ありがとう。あたし今あんたの友情に救われてるよ」
「優花の瞳は誰も映さない。そして気づいたら俺を一目でも映して欲しくて恋焦がれて覗き込んでしまう。覗き込んだら最後、お前の深淵で溺れるしかなくなる」
優花の目を右手で塞ぐ。
「だから、目隠し、鼻フック、拘束、ラバースーツで丁寧に包装して『この気持ちは性欲だ、恋や愛じゃない』って、ただ快楽だけに集中しないと、あっという間に堕ちる」
優花は目隠しをされたまま、晃一のひざに指を這わせる。
「経験者の助言はさすがに重みがあるね」
晃一はそれに答えず、優花の首筋に手をかける。
幸せそうな笑みで顔を紅潮させる優花は、息苦しさの中で解放感を味わっていた。
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