小さな旅・思い立つ旅|美味しくて、美しい クラフトブルワリーへ[滋賀、鳥取、奈良、徳島、京都]
発酵を繰り返す「腐る」経済
菌や発酵と向き合う鳥取のパン屋さん「タルマーリー」が提唱する「発酵」から経済を見通す面白い本。
お金は時間が経っても土へと還らない。永遠に腐らない。「食」(商品)を安くして「職」(人や労働環境)が疲弊する経済は、やっぱりおかしい。長時間労働と添加物にまみれた、パン業界に疑問をもち、理想のパン屋を追求した著者の言葉。
「拝金主義」から「拝菌主義」へ
「金」ではなく「菌」を育てる。「菌」が育てば、「食」は「発酵」へと向かう。生命豊かに菌を育めば、潜在能力が十二分に発揮される。人も同じ。豊かな「職」を育めば、能力が最大限に発揮される。
「借金」から、菌の力を借りる「借菌」へ
「金本位制」から、「菌本位制」へ
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ということで、人も菌も喜ぶ美しいブルワリーで、美味しいクラフトビールでもどうでしょう、という話。
微生物にいい環境は、人にもいい環境
旅の目的地として、ビールやワインの醸造所、酒蔵、醤油や味噌の醸造元はとってもおすすめ。共通点は「醸造」。微生物の作用で、食を美味しく変化させる場所。
「醸造」に必要な要素は、以下4つ。
でもこれって、人にとってもいい環境じゃない?
水や空気がきれいで、交通の結節点で、その土地の歴史が刻まれているところ。旅の目的地に、「醸造」はとてもいい。
ということで、暖かくなってきたこの季節にクラフトブルワリーでもどうでしょう。
彦根麦酒|滋賀
琵琶湖と荒神山に囲まれた田園のブルワリー
琵琶湖と荒神山の間、曽根沼の隣にあるブルワリー。田んぼの広がるのどかな風景の中に、ぽつんとある建物。
彦根産原料100%のクラフトビール造りを目指し、建物周辺には大麦やホップの畑が広がる絶景。田園風景を望むテラスで、ビール片手にのんびり過ごす、最高のひととき。
タルマーリー|鳥取
中国山地の山奥にあるパンとビールの醸造所
有名な理由は、パンもビールも、市販の酵母を使用せず、すべてその土地に生きている野生酵母、麹菌を採取して使用しているところ。
当然、日本唯一
一般的にビールは新鮮なうちに飲むものとされている。一方、野生酵母で醸造するビールは、半年ほど長期熟成させることで、より香り豊かで円熟した美味しさになるという。
かつて幼稚園だった建物をDIYでつくりあげる行動力、野生の酵母を手懐ける知識、そのために人生をかけて、鳥取の山奥に移転するエネルギー、すべてが最高のブルワリー。
グットウルフ麦種|奈良
「日本昔ばなし」の世界を体現するブルワリー
吉野の山奥。お店の前まで車で近づくことはできない。少し離れたところに車を停めて、ヤギのいる田んぼの畦道を歩いてたどり着く。
ニホンオオカミが、日本で最後に捕獲されたことにあやかり、『グットウルフ』と命名したとのこと。
吉野杉の爽やかな香りや、地元のゆずを使用したビールはもちろんいいとして、なにより最高なのはこの山間の風景そのもの。
夕方、周りの民家から薪の煙が立ち登る。
聞くと、この集落はお風呂を薪で炊く文化が残っているとのこと。集落一体から薪のいい匂いが立ち込める夕方の光景は、もう「日本昔ばなしの世界」そのもの。
RISE & WIN Brewing Co.|徳島
“ゴミを出さない”暮らしを体現する町
ゴミのリサイクル率80%を誇り、世界からも注目を集める上勝町。山間の棚田が広がる小さな町は、2003年にゴミをゼロにすることを目標に行動する「ゼロ・ウェイスト宣言」をスタート。
建物には、もともと捨てるはずだった建具や家具を再利用。クラフトビールには搾汁後の柑橘や規格外の鳴門金時を活用。
最近は、ホテルもできて、まだまだ進化を続ける山奥のサステナブルな町
Spring Valley Brewery Kyoto|京都
日本のビールの礎となるブルワリーを引き継ぐ
名前の由来は1870年、米国人ビール醸造家が横浜に設立した「Spring Valley Brewery」。日本で最初に商業的に成功した醸造所。
日本のビールの歴史の礎となった伝説のブルワリーの志を引き継ぎ、代官山、横浜に引き続き、京都にオープン。
錦市場のほど近く、築100年の建物を改修した店舗。かつて木綿問屋だった建物は、間口が一般的な町屋の5〜6倍もあり圧巻。
麦とホップだけでなく、柚子や山椒といった副原料まで「京都産」にこだわり、ビールだけでなく料理も楽しめるおすすめの場所。
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