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デンマークの潮干狩り

「今度、授業でoyster huntingしようと思うんだけど、どう思う?」

ある日、フォルケの休憩時間にコーヒーを飲んでいたら、Back to natureの先生に相談された。

*フォルケは先生と生徒が対等な立場にあり、お互いに学びを得ながら成長する場。この先生は釣りやキャンプが趣味なこと、日本にワーホリに来たことがあることで気が合い、我々夫婦とは「友人」のような関係を築いていた。

「Oyster... oysterって牡蠣のことだよね?そんなのhuntingできるの?やってみたい!!」

「Great. じゃぁ計画してみるよ!」


牡蠣狩り

日本人に馴染みの深い貝、牡蠣。「海のミルク」とも呼ばれる牡蠣は世界中で的に食べられており、デンマークをはじめとする北欧諸国でも石器時代から食べられているそう。

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デンマークはユトランド半島の西海岸に真牡蠣がとれるスポットが多いんだとか。

牡蠣、特に真牡蠣はRのつかない月、すなわちMay,June, July Augustは産卵期なので食用に適さないとのこと。

「生で食べるならチャンスは冬のうちだよ!まぁ、冬のデンマークは風が強くて雨の日が多いから行けるかどうかは運次第だけど」

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2020年2月の天気に恵まれた日、とうとうOyster huntingの授業が決行されることに。胸元まであるゴムびきの防水スーツに身を包んで、牡蠣のいそうな浅瀬を歩きながら、牡蠣を狩るのだ。

基本的にヨーロッパは遠浅の海が広がっているため、海岸からそこそこ離れても膝下ぐらいの深さしかないところが多い。みんな思い思いに牡蠣を求めて、潮干狩りを始めた。

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よく目をこらすと、牡蠣は意外とあちこちに転がっている。半分埋もれているものもあれば、完全に顔を出しているものも。

「こっちにたくさん牡蠣がいるよ!」と良いスポットを見つけた生徒が教えてくれて、みんなでそこに向かおうとした…

が、そこに行くまでにはふくらはぎくらいの「ちょっと深めの箇所」を通らないといけない。ゴム引きスーツを着ていない旦那様が、なんとも言えない顔で佇んでいた。

*この日、ゴムびきスーツが人数分なかったので、優しい旦那様は「自分は足首まであるアウトドアブーツ履いてるし、濡れても大丈夫な格好で来てるから最後の一つ着ていいよ」と気前よく私にスーツを譲ってくれた。そんな旦那様の装備では足首までの浅瀬じゃないと戦闘力が発揮できない。

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みんなにスーツを譲ってくれる旦那様が、実は1番牡蠣狩りを楽しみにしていたのだ。スーツを譲ってくれたんだし、ここは私が助ける番。

ということで、無事に旦那様をおぶってちょい深エリアを通過し、みんなで楽しく牡蠣を狩ってきた。

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その日はたくさんの牡蠣が取れたので、学校に戻ってみんなで実食。意外なことに、デンマーク人も一部の人は生牡蠣を楽しむそう。

日本人と中国人の生徒は慣れているので生牡蠣の殻を割って、ひょいひょい食べ、あまり慣れていないデンマーク人の若い生徒は、そんな私たちを若干引き気味に見ながら生食に挑戦していた。

ちなみに、日本の生牡蠣は「生食に適した環境下で養殖」したものを食べるが、ここではもちろん、そんなことはない。「牡蠣にはウイルスがあるから、生で食べるとお腹痛くなることもある。だから無理せず自己責任で食べるように」

そう言った先生方はノリノリで白ワインを準備し、生徒たちにも振る舞いながら生牡蠣を楽しんでいた。

余談だが、この牡蠣狩りをした頃は新型コロナウイルスがじわじわとヨーロッパにまで感染の輪を広げてきていた時期だ。

「今はコロナウイルスじゃなく、ノロウイルスのが危険だね」って冗談を言いながら美味しく牡蠣を食べたその夜。

お腹が不穏な気配を醸し出してトイレに直行する羽目になりました。見事にHit!

まぁ私は元々「当たっても良いから生牡蠣を食べたい」くらい生牡蠣が好きなので、これくらいどうってことない、2、3日水分のみ補給しながらトイレとベッドを往復するだけなので(個人的には)そんなに大した問題じゃない。

この日は症状が軽かったので、トイレとベッドを1日往復するだけで事足りた。

ムール貝狩り

その後少し時が過ぎ、2020年3月中旬。修学旅行から帰国した後、デンマークをはじめとするヨーロッパは新型コロナウイルスの感染拡大を防止すべく、ロックダウンの処置を取り、フォルケホイスコーレもその対象に。

外国人留学生はフォルケに滞在、デンマーク人学生は自宅待機をすることに。もちろん授業はなく、近くに住んでいるキッチンスタッフやクリーニングスタッフが定期的に様子を見にきて、物資を補給してくれた。

フォルケホイスコーレは学び舎でもあり、家でもあるので、この処置は正直とてもありがたかった(外国人留学生も撤収しないといけないフォルケもあったので)。この期間は授業もなく、みんなで助け合いながらご飯も自分たちで作っていた。

そんな時「この近くにムール貝が取れるスポットがあるらしいから、お昼ご飯の材料を取りに行こうよ」と、フォルケの敷地内にある自宅に住んでいる先生が誘ってくれた(敷地内に先生が住んでいるのはフォルケあるある。この先生は生徒の生活の面倒を見るように言われていたそう)。

ムール貝の季節は牡蠣の少し後。ムール貝と聞けばイタリア料理やスペイン料理などを想像する通り、主にヨーロッパで食べられている。旬は3月から4月にかけたということで、朝ごはんを食べた後にムール貝狩りへ。

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この日は旦那様もゴム引きのスーツを着て、ムール貝ハンティング!最初は冷たいし寒いし、なかなか見つからないしで大変だったけど、よくよくお目を凝らすと岩や海藻の裏にムール貝がいるのを発見できた。

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この日は15人分のムール貝を取って、学校に帰って一晩砂抜き。翌日のお昼に白ワイン蒸しにして美味しくいただいた。

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ムール貝はフュン島の海岸でも取れるらしく、コロナで授業が無くなったアウトドアクラスの先生が、趣味のシーカヤックがてらムール貝を狩って、パスタにしたよ!とSNSで嬉しそうに報告していた。

海藻狩り

最近のデンマークでは、海藻狩りも流行っているんだとか。

「海藻狩りに行くんだけど、一緒にどう?食べ方とか日本人は詳しいだろうし、教えてよ」と誘われたことがある。

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この日はなんの変哲もない、そこらに生えている海藻を取って持ち帰ってぶつ切りにし、オーブンでカリッと焼いてスナック感覚でみんなで食べてみた。

なぜデンマークで流行っているんだろう。誘ってくれた友人に聞いて見たところ、

「最近牛の飼料に海藻を混ぜることがあって、健康に良さそうだから流行っているのよ」と答えてくれた。

環境意識の高いヨーロッパの中でも、さらに意識の高い北欧諸国。実は牛の飼育には二酸化炭素を多く輩出してしまうほか、ゲップやオナラによるメタンガスの影響も深刻で「二酸化炭素の25倍の温室効果がある」と言われているそう。

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このメタンガスを抑制するのに海藻の飼料が効果的であるらしく、その影響を受けて海藻ブームが来ているそうだ。

参考:japanese engaged 

サスティナビリティの授業でも、この話はよく聞いて生徒と先生、酪農家を交えて議論をした覚えがある。なるほど、そういう理由なのね。

「そもそも日本食はHealthyだし、美味しいからね。それも理由の一つだよ」

海藻を食べる国代表といえば日本と韓国。日本人に海藻の食べ方を色々聞いてみたいと強請られるわけだ。意外なところで文化交流を楽しみつつ、デンマークでの海藻チップスを堪能した。

潮干狩りやキノコ狩り、ベリー狩りの相棒(?)

デンマークではよく、ベリーやキノコ、貝を自分の手で取って、自分で調理して食べる。その時、多くの人が「ヨーグルトの空き容器」を利用している。

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「パンケーキのような国」と呼ばれるほど平らな国土を持つデンマークでは、酪農が盛んで乳製品が豊富。スーパーではどでかいサイズのヨーグルトが売られており、この容器がプラスチック製で丈夫であることから、みんなよく使うのだ。

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Airbnbで借りたお宅の台所のにこの空き容器が積み重なっているのをよく見かけた。パッケージが可愛いので、個人的にはこの「ヨーグルト容器」を相棒にしてハンティングに出かけるのが、とても楽しみだった。


デンマークの潮干狩り事情

デンマークをはじめとして、北欧には「自然享受権」という慣例法が制定されており、私有地や国営地であっても誰でも潮干狩りやベリー・きのこ狩り、キャンプ、カヌー/カヤックなどのアウトドアアクティビティが楽しめる。

釣りに関しては漁業組合のような組織に「釣りをする権利」を認めてもらい(簡単な資格みたいな物らしい)、漁業料を払う必要がある。けど、潮干狩りは自由に楽しむことができるのだ。

とはいえ、「食べられる分だけ」取って残さず食べるのが自然に対する敬意。乱獲やゴミの放置、他の魚などの生態に影響が出るような行為はNGだ。みんなが自然享受権の基本「みんなの自然をみんなで楽しみ、みんなで守る」をきちんと知っているからこそ、できることだと思う。

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フォルケを卒業した後、ユトランド半島を点々と旅する間にも、良さそうなスポットを聞いて探しては牡蠣やムール貝を狩って美味しくいただいていた。

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デンマークにおいて、真牡蠣は侵略種。真牡蠣はムール貝と原産種である岩牡蠣としばしば、生息地が近くなることもある。なので、ある意味「真牡蠣を狩って美味しくいただくこと」はデンマークの生態系を維持するために必要な行為なんだそう。デンマーク観光局は外国人観光客に向けた牡蠣狩りツアーや、フランスや中国のレストランシェフに来てもらって牡蠣を狩ってもらうこと、「牡蠣サファリ」のイベントを国内で立ち上げ、牡蠣を食べることを推奨して解決しようとしているんだとか。

参考:Visit Denmark , Danish beach overrun with giant oysters


日本と比べてアウトドアアクティビティの自由度が高い北欧の国々。日本で牡蠣やムール貝はそこそこ高級品なので、ここぞとばかりに自然享受権を行使して、その恵に舌鼓を打たせてもらった。この自由度の違いはなんだろう。

日本にも山菜狩りや潮干狩りの文化はある。子供の頃、祖父の家の近くのビーチでウニを取って食べたこともある。実際に帰国してからよくよく観察してみると、意外と野性の牡蠣はあちこちのビーチに生息している。ただし、私有地や国有地では「山菜狩り禁止」などの看板が多く、なかなか自由に楽しむのが難しい場面が多い。

このことをよく旦那様と議論する。文化の違いももちろんあるが、「人口密度の違い」が大きいのではないか、と最近考えている。

日本の人口は約1億2千万人。よく「小さな島国」と表現することはあるが、人口1億人超えているヨーロッパの国なんて、ロシアだけなのだ。世界の人口ランキングでも日本は10位。一方でデンマークの人口は約580万人。面積も九州程度しかないので人口密度は日本に比べて低い。

(日本:335人/km2、デンマーク:126人/km2。そしてデンマークは北欧諸国の中で最も人口密度が高く、スウェーデンだと20人/km2)

人口が多いとどうしても、取り過ぎてしまったり、自然に負荷をかけ過ぎてしまうことが多くなってしまう。これが北欧と日本の大きな違いなのだろう。

日本にも、北欧にも雄大な自然が広がり、それぞれのアウトドア文化が根付いている、その違いを楽しみながら、自然を楽しんでいきたいと思う。

そんなわけで、日本に帰ってきてからはアウトドアメディアLANTERNとTAKIBIの2社で公式契約を結び、北欧と日本のアウトドア記事を執筆している。

もし興味があれば覗きにきてくれると幸いです( *`ω´)

LANTERN記事(北欧のアウトドア)

TAKIBI記事(日本のアウトドア)

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