愛犬散歩日和(小説)
車で父さんに連れられて行ったペットショップの檻の中に引き取られるべきであろう子犬がいっぱい居た。その中でもとびきり元気のいいポメラニアンの子犬がぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
手を伸ばす僕の所へ、飛びついてくるいささか可愛い顔をしたオスのポメラニアンの子犬を安価な値段で引き取ってきた。今日から新しい生活が始まった。
子犬の名前は、東京ディズニーランドのミッキーマウスのように皆に愛されるようにミッキーと名付けた。
ミッキーは初日からよく寝ていたが、鼻が鼻炎持ちらしく人間のように大きないびきをかいて寝ているのが可愛かった。トイレのしつけ水飲みを早く覚えて、びっくりした。
母は犬を抱くのが初めてで慣れてないのよ、と言いながら、赤ちゃんだった僕を抱くように慣れた手つきでミッキーを抱っこして可愛がっていた。
父さんが仕事から帰ってくると、ミッキーが玄関まで迎えに行ったり、母さんがドックフードが固かろうと作ったバター付きの食パンを食べたり、新しい生活でミッキーは家族の潤滑油になるくらい可愛がられる日々だった。
散歩の代わりに小さな庭で走らせたり、廊下に座らせて、おいでと呼ぶと走って駆け寄ってきてちょこんと僕のあぐらの中に座り、ベッドで寝ていると、僕も、と言わんばかりクゥーンと鳴いたりリビングに寝そべっているとお尻をくっつけて寝るほど寂しがり屋の子犬だった。
そのミッキーが寿命で亡くなってから、僕の心にぽっかり穴が空いたようだった。代わりの犬を飼う気もしなかった。
その代わり、それからの日々、旅行にあちこち行くようになった。
その中でも、東京が妙に楽しかった。羽田空港に着くとなんだか都会感を感じ、東京駅に着くとノスタルジック感を感じていた。
浅草からお台場まで水上バスに乗ったり銀座コリドー街の寿司の美登利でたらふく美味しい握り寿司を食べたり表参道、原宿をブラブラしたりして山手線の巣鴨駅で好物の塩大福を買いに行くと、大型犬を連れて散歩している老人の男性に出会った。
「こんにちは」老人は僕に話しかけてきた。
「こんにちは。犬のお散歩ですか?」
「今日は涼しくてメリーのお散歩にちょうど良い日和でねぇ」
「メリーって名前なんですか。とても優しい目をしてますね」
「娘と息子と孫が犬が大好きでねぇ。大型犬はなんだか自分を守ってくれる気がして安心するんだよ」
「そうなんですか、僕はもっぱら小犬を飼ってたんだけど大型犬も可愛がらないとなあ」
「アハハハハ、巣鴨なんて若者の来るところじゃないのに、今日は散歩途中、若いもんとお話出来て良かったよ、じゃあ良い一日を」
老人とは適度な長さの会話で終わった。
その日の夜、テレビで大型犬の盲導犬の特集をしてて、盲導犬は年老いて役目を終えたらまた別の家族に引き取られ老後をゆったりと過ごすとのことで、ご主人が別れを惜しんでいるシーンで涙が出てきてしまった。
あの巣鴨のお爺さん、気軽に話しかけてきてくれて、なんだか、わんこお散歩日和の秋の日を思い出すんだあ。いつまでも長生きしてね。僕は愛犬ミッキーのことが忘れられずに未だに犬を飼っていなかった、あの日から。
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おしまい