フォーク&ニューミュージック名曲集②放送禁止歌(前編)
所謂「放送禁止歌」は日本民間放送連盟(民放連)による自主規制制度(要注意歌謡曲指定制度)に基づいていますが、 明確な基準はなく、どの曲を放送禁止にするかは、各放送局が判断(忖度)して自主的(あるいは恣意的)に決めていたようです。
差別、政治・思想、放送禁止用語、性的な内容、反社との関連などが歌詞に入っている楽曲が対象になりました。
差別を助長する、反社会的勢力を肯定的する、卑猥度が高いなどの楽曲が自主規制の対象になるのは理解できます。しかし、差別に反対する曲や「政治的・思想的」な内容を扱った曲の多くが放送禁止とされるのは、表現の自由や思想信条の自由という憲法で保障された基本的人権が守られていない点で非常に問題があります。
ただし、「ヨイトマケの歌」など発売当時要注意歌謡曲に指定された曲でも、その後の社会の変化を反映して現在では解禁されている曲も多いようです。
フォークソングの分野でも多くの曲が放送禁止をくらっていますが、その筆頭は何と言っても岡林信康でしょう。
岡林信康は1960年代末~1970年代初頭の全盛期には「フォークの神様」と呼ばれ、社会派フォークの旗頭的存在でした。(本人はそう呼ばれることに重圧と抵抗を感じていたらしいですが)
数多くのプロテスト・ソングを作曲・演奏し、放送禁止になった曲が最も多い歌手の一人。何しろデビュー曲に予定されていた「くそくらえ節」からして、国家権力や政治家、宗教などの風刺が度を越しているという理由で発売禁止になったほど。
ライブでは、天皇まで風刺の対象にしていますので、当時、もし、このままの形で発売されていたら、激怒した右翼の襲撃を受けたことは確実です。(「風流夢譚」事件参照のこと)
「くそくらえ節」は「マイナー調の美しいメロディの曲」という範疇から外れるのでリンクはしませんが、ライブ・バージョンはユーチューブにアップされています。
1960年代後半に社会派フォークや反戦フォークなどのプロテスト・フォークが若者たちに受け入れられ、大いにもてはやされたのには時代背景も関係していました。
当時は若者たち(決して多数派ではありませんが)にとって「政治の季節」であり、全国の大学や高校で学園闘争が頻発し、「70年安保」に向けて学生運動が高揚していた時代でした。
こうした若者たちの間の「反体制的気分」が音楽の分野にも反映していたことは確実です。1969年の新宿西口広場フォークゲリラは、その象徴な出来事でした。
しかし、逆もまたしかりで、直接的なプロテスト・ソングに行き詰まりを感じていた岡林信康が1970年、突然ドロップアウトして音楽活動を止めてしまったことにも同じことが言えます。
ヘルメット、ゲバ棒、火炎瓶、投石用の石などで武装した「新左翼」は、1967年の「第一次羽田闘争」、68年の「新宿騒乱」、69年の「東大安田講堂事件」等を経て、「70年安保闘争」まで街頭での派手な暴力闘争を繰り広げます。
しかし、こうした過激で跳ね上がった「左翼小児病」的極左冒険主義闘争方針は、次第に大衆の支持を失い、孤立を深めていくことになります。
自らの誤った行動が招いた公安警察や機動隊の激しい弾圧によって封じ込められた政治的エネルギーは行き場を失って内に向かい、分裂や内ゲバを繰り返して自滅して行きます。
こうして「新左翼」による過激な暴力行為を中心にした「70年安保闘争」は、何の成果も上げずにあっけなく敗北。そして、あの忌まわしい「連合赤軍事件」(1971)がそれに追い打ちをかけ、当時、既に退潮傾向にあった日本の学生運動に最終的なとどめを刺すことになります。
それとともに若者たちの間であれほど漲っていた反体制的雰囲気はまるで潮が引くように急速に失われ、代わって「ノンポリ」や「しらけ世代」と呼ばれる政治に関心のない若者たちが主流となって行きます。
そのような時代の雰囲気を反映してプロテスト・ソングもかつての輝きを失い、社会に対する「メッセージ性」という「毒気」を抜いた極私的な「四畳半フォーク」や後に「ニューミュージック」と呼ばれるようになる「フォーライフ」系を中心にした「商業フォーク」が隆盛を極める時代がやってきます。
このような時代的風潮の変化が、岡林信康の音楽活動にも微妙な影を落とさないはずはありません。
時代背景と芸術メディア(映画)との関係は、こちらにもう少し詳しく書いていますので、興味のある方は読んでみてください。
前置きが少々長くなってしまいました。ここから、放送禁止になったマイナー調の名曲を聴いていきましょう。
岡林信康 「手紙」
カルメン・マキ 「手紙」
岡林信康「チューリップのアップリケ」
岡林信康「山谷ブルース」
岡林信康 「友よ」
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