マンガノート⑤ SFディストピア・マンガ 新田たつお「隊務スリップ」
東京がテロリストの核攻撃を受けて壊滅した後、念願だった再軍備を達成し、世界第三位の核兵器を持つに至った近未来の日本を描いたポリティカル・フィクション系SFディストピア・マンガです。
初めの内は一見ギャグマンガ風で、題名よろしく「滑った」ギャグが満載。しかし、饅頭屋の職人だった主人公たちが3か月間の促成軍事訓練の後、アフリカの紛争地帯へ強制的に海外派兵される2巻、3巻と進むにつれて物語は深刻度を増し、次第にシリアスな反戦マンガに変貌していきます。
「静かなるドン」で有名な新田たつおがこんな反戦マンガを書くとは、ちょっと意外でした。
近未来の日本では企業活動にAIが本格的に導入され、非正規職員だけでなく大企業の正規職員までが次々とリストラの憂き目にあいます。
大量の失業者や余剰人員の受け皿となったのが、東京がテロリストによる核攻撃を受けた事を口実に再軍備された「日本国軍」。失業者を次々に入隊させて肥大化し、政治的発言力を増していきます。これは、明らかに貧困ビジネスによる「赤紙なき徴兵制」の風刺ですね。
反政府勢力は復活した「特高(特別高圧警察)」によって弾圧され、地下に潜った一部の過激派はテロ活動に走っています。
第3巻では、1000万都民を殺戮した核攻撃が実はテロリストの仕業ではなく、憲法第9条を改悪して日本を再軍備させるための自作自演の謀略だったという衝撃の恐ろしい事実が明かされます。
核テロを計画・実行したのは、日本政府を裏で操る「軍産複合体」の首魁。東京壊滅の大参事に便乗した「ショック・ドクトリンに」よって一気に憲法を改正して日本を再軍備・核武装させ、最新ミサイルや核兵器、軍需品などの開発・製造を「軍産複合体」が一手に引き受けるというマッチポンプ。
こうして物語の背景が語られた後、即席の軍事訓練を終了した主人公たちはアメリカ軍の弾除けとして、いきなりアフリカの「テロ国家」との戦いに投げ込まれるのですが、そこは、AIを搭載したハイテク兵器が次々と生身の人間に襲い掛かって来る地獄の戦場だったのです。
上陸作戦の前に主人公たちが食べさせられるのが、ヒロポンや猫目錠と呼ばれた覚せい剤が仕込まれた饅頭。「疲労がポンととれるからヒロポン。」という台詞まで出てきます。戦争のために覚せい剤が使われることをはっきり描いたのはある意味画期的です。
新田たつおは、2015年の「有事法制関連法」強行採決に危機感を抱いて、このマンガの連載を始めたそうです。
米国の要求通り安倍晋三は国民の強い反対を押し切って「安保法」(「有事法制関連法」)成立させ、憲法違反の集団自衛権の行使を可能にしてしまいました。米国が海外で戦争を開始し、その戦争が日本有事とみなされて「安保法」が適用されれば、米兵の弾除けとなって真っ先に犠牲になるのは第一線の自衛隊員。
自衛隊を海外派兵すれば日本が米国と共に参戦したも同然ですから、否応なしに戦争に巻き込まれ、相手国から日本本土が攻撃されることは必至です。
米国の命令に進んで従い、日本の軍事大国化を目指す最近の政府自民党の動きを見ていると、我々も「これはマンガの中のお話」と笑ってはいられません。
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