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夢に見たから有名なのか、有名だから夢に見るのか。ユング心理学との関連【映画ドリームシナリオ】

夢が現実を侵食する悪夢:映画「ドリームシナリオ」をユング心理学で読み解く


2023年に公開された映画「ドリームシナリオ」(原題: Dream Scenario)は、平凡な大学教授ポール・マシューズが、突如として世界中の人々の夢の中に現れるという奇妙な現象に巻き込まれる物語です。

監督が、現代社会の不安と人間の心理を、ブラックユーモアと幻想的な映像で描き出した本作は、単なるコメディ映画としてだけでなく、私たちの深層心理に潜む普遍的なテーマを映し出す鏡としても注目されています。



主演は、近年シリアスな演技からコメディまで幅広く活躍するニコラス・ケイジ。彼の独特な存在感が、どこか頼りなく、しかし内に葛藤を抱える主人公ポールを見事に体現しています。


あらすじ:夢の中の有名人

ごく普通の大学教授であるポール・マシューズは、退屈な講義と家庭生活を送る、平凡な中年男性。

しかし、ある日を境に、彼は世界中の人々が見る夢の中に、背景として、時に邪魔者として現れるようになります。最初は戸惑っていたポールですが、次第に夢の中の有名人として扱われることに優越感を覚え始めます。


しかし、夢の中でのポールの行動は、現実世界にも影響を及ぼし始め、事態は思わぬ方向へ展開していきます。夢の中のポールがネガティブな存在として認識されるようになると、現実世界でのポールの立場も悪化。彼は、夢と現実の狭間で、アイデンティティを喪失していく危機に直面します。


ユング心理学との関連性:集合的無意識と元型

本作を深く理解する上で、スイスの心理学者カール・グスタフ・ユングが提唱したユング心理学の視点は非常に有効です。

ユング心理学は、個人の意識だけでなく、人類共通の深層心理である「集合的無意識」の存在を重視します。

集合的無意識は、個人的な経験を超えた、人類の歴史や文化を通じて受け継がれてきた普遍的なイメージである「**元型**(アーキタイプ)」から構成されると考えられています。


「ドリームシナリオ」に登場する夢の現象は、この集合的無意識の世界と深く結びついていると解釈できます。

世界中の人々の夢に共通して現れるポールは、まさに元型的な存在と言えるでしょう。では、ポールはどのような元型を体現しているのでしょうか?

1.影(シャドー) 抑圧された自己

ユング心理学における「**影**」とは、意識的な自己(ペルソナ)が抑圧している、 暗い側面を指します。

夢の中のポールが、最初は背景として無害な存在だったにも関わらず、次第にネガティブな存在へと変貌していく過程は、まさに影の側面が意識に現れ、 夢全体を侵食していく様子を象徴しているように見えます。

現実世界のポール自身も、満たされない承認欲求や、変化を恐れる保守的な性格など、影の側面を抱えています。


2.**ペルソナ**: 社会的な仮面

「**ペルソナ**」とは、ラテン語で「仮面」を意味し、ユング心理学では、社会的な役割や外面を指します。ペルソナは、社会に適応するために必要な一方で、過度にペルソナに同一化しすぎると、自己の内面との乖離を生み、 不統合を招く可能性があります。


現実世界のポールは、大学教授という社会的な役割を演じていますが、夢の中のポールは、当初、ペルソナとしての役割すら持たない、単なる背景として存在します。しかし、夢の中の有名人として祭り上げられることで、ポールは新たなペルソナを身につけようとします。

この過程は、社会的な承認欲求に囚われ、本来の自己を見失っていく現代人の姿を反映しているとも解釈できます。



夢と現実の境界線:自己実現への道

「ドリームシナリオ」は、夢という非日常的な現象を通して、現代人が抱える普遍的な心理的葛藤を描き出しています。夢の中のポールを通して、私たちは自己の影、ペルソナ、そして深層心理に潜む元型と向き合うことになります。

ユング心理学の視点から本作を読み解くことで、私たちは夢を単なる睡眠中の現象としてではなく、自己理解への重要なメッセージとして捉え直すことができるでしょう。夢は、意識が抑圧している深層心理の声であり、自己実現へと向かうための羅針盤となりうるのです。

映画のラストシーンは、解釈の幅を残しつつも、主人公ポールが自己の内面と向き合い、新たな一歩を踏み出すことを暗示しているように見えます。

夢と現実の境界線が曖昧になる現代において、「ドリームシナリオ」は、私たち自身の心の内なる風景を映し出す、示唆に富んだ作品と言えるでしょう。


映画「ドリームシナリオ」は、心理学、特にユング心理学に興味のある方にとって、非常に興味深い作品です。ぜひ、劇場で、あるいは配信で、本作をご覧いただき、夢を通して自己探求の旅に出てみてはいかがでしょうか。

レビューとネタバレ

ポールは有名人になり、チヤホヤされるがある日悪夢ばかりに登場するようになる。

生徒からは拒絶されて、家族とも離れて暮らすようになる。店でも追い返されてしまい居場所がない。

最終的には大学からは示談金をもらい、広告代理店経由で夢に関する本を出版して書店イベントはできた。

彼がやりたかったことは思ってもみない形で達成できたが、彼は多くを失ってしまう。

代理店の女性がポールに関する淫夢を見て、性的なフラストレーションを解決しようとしたシーンは興味深かった。

夢や集団的無意識について、よく考える映画で大変面白い。

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