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異国で死んだらどうやって日本に帰ってくるんだろう


今から10年前、私の妹が急死した。心筋梗塞だった。妹は長くアメリカに暮らし、亡くなったその時はたまたま日本に帰って来ていた。亡くなる2日前に帰って来たよとメールをくれて、週末に実家へ会いに行くからと返事をしていたが、結局会えなかった。直ぐに会いに行けばよかったのにと私は自分を責めた。
私たち家族は最悪の中にも何かポジティブな事柄を見い出そうとしてたどり着いたのは、亡くなったのがアメリカではなく日本に帰って来ている時で良かったということだった。もしもアメリカで亡くなったならどうすれば良いのか、全く見当がつかなかった。向こうで葬儀をすることになるのか、それとも日本に連れて帰る手段があるのか。そういう問題が発生しなかったことに感謝した。最悪の中の最善だった。



先日のWBCの決勝戦見たさに、次女がAmazonプライムに加入した。すると、観たいと思っていたドラマがあったことに気づき次女と2人でさっそく観た。原作は、数年前に話題になったノンフィクション。前々から読んでみたいと思いつつ未読だったがドラマを観終わった今逆に、やっぱり原作を読んでみたいと思っている。ドラマで描かれた人たちのことをもっと知りたくなったのだ。


エンジェルフライト 国際霊柩送還士

主演・米倉涼子×脚本・古沢良太!海外で亡くなった人の遺体を国境を越えて遺族に送り届ける、実在するスペシャリストの物語。羽田空港にある“エンジェルハース”という会社には、シングルマザーの剛腕社長・伊沢那美(米倉涼子)と強面の会長・柏木(遠藤憲一)を中心に、新入社員の凛子(松本穂香)、マニアックな柊(城田優)、チャラい元ヤンの矢野(矢本悠馬)、噂好きなみのり(野呂佳代)、温厚だが得体の知れない田ノ下(徳井優)などクセのある社員たちが勢揃い。亡くなった人と残された家族の間でくり広げられる愛の物語を、涙と笑いで描く感動のエンターテインメント&ヒューマンドラマ。原作:佐々涼子「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(集英社文庫刊)/制作:NHKエンタープライズ
Amazonプライムより

『おくりびと』という映画で、“納棺師”という職業にスポットが当たった。それまで全く認知されていなかったこの職業だったが、あの映画を観てからは納棺師の方に対して興味を持つようになった。興味などという言葉は不適切かも知れないが、誰かが亡くなって、その方の身支度を整えて棺に納めるお仕事、それをしてくださる方がいることやその仕事ぶりを意識するようになった。妹が亡くなった時も、最後にお化粧をしてくださる時「可愛くしてやってください」とお願いした。映画を観ていなかったらそんなお願いをすること自体がありえなかったと思う。
『エンジェルフライト』の主人公は“国際霊柩送還士”。この職業をご存知だろうか。


海外で亡くなった方の遺体を国境を越えて遺族に送り届けるスペシャリストのことだ。10年前にもし私の妹がアメリカで亡くなっていたら、お世話になっていたかも知れない。海外で亡くなった方の棺が飛行機から下ろされて運ばれている様子、ニュースで見たことがある。亡くなる理由も様々だ。事故や病気、あるいは事件に巻き込まれたり。また逆に日本で亡くなった方のご遺体を海外へ送るという場合もあるのだろう。


ドラマで描かれるのは、亡くなった方やそのご遺族に対する敬意だ。まずもって、“死体”なんてもってのほか、“遺体”とか“遺族”とかも言わない。“ご遺体”であり“ご遺族”だ。そして「大切な人を失った家族に、できるだけきちんとしたカタチで最期のお別れを」そのためにはご遺体の状態を出来る限り生きていた時の状態に近づけられるよう修復する。苦しみのあまり眉間によった皺を伸ばし、事故で陥没した頭部を膨らまし、傷やアザは詰め物やメイクで。


特に大事なのは“”。胸の上で組んだ両手を、遺族が握ることもあるだろう。事故などで失われた手や指も出来る限り修復する。
最初に現地でご遺体に対面したご遺族はまさかそんなにキレイになって帰って来るって思っていない。棺の中を覗くシーンがあると私まで思わず「わぁキレイになってる」って言ってしまうけど、そりゃドラマだからって言われたらその通りなんだけど、でも多分実際もそうだと思う。私の妹だって母だって、皆キレイだった。納棺師の方にキレイにしてもらってた。そうやって、生きてる時と変わらない感じでそこに居てくれたら、言いたかったのに言えなかったこととか、逆に言うつもりがなかったことがポロっとこぼれたりする。主人公はこう言ってた。


「亡くなってもその方の魂が一瞬だけ体に戻ってくる瞬間があると思う。それはちゃんとお別れをするため」だと。亡くなっているとはいえ実体としてそこに居ると、どうしても今伝えておかなければ手遅れになってしまうと思ってしまうのかも知れない。お骨になってしまってからでは、伝えておきたいという気持ちの強さが違うのかも知れない。全ては、大切な人の死を乗り越えるため。


全7話。毎回違うカタチの“死”が描かれる。「エンジェルハース」という国際霊柩送還を請け負う会社の面々が良い。一見チャラかったりガラが悪かったりするが、それぞれがスペシャリストで仕事がデキる。想いはいつも、「大切な人を失った家族に、できるだけきちんとしたカタチで最期のお別れを」。国際的なお仕事だけに、外務省や大使館の人たちとも顔見知りだ。他のキャスティングも良い。新入社員役の松本穂香さん、その母に草刈民代さん。この親娘のいびつな関係性もドラマのアクセントになっていた。私たち視聴者は亡くなった方がどんな想いで異国へ旅立ち、そこでどんな人に出会い、どんな経験をし、そしてどうして亡くなったかをドラマのエピソードとして観ている。が、「エンジェルハース」の人たちは変な詮索も感情移入もしない。とにかくご遺体を少しでも早くご遺族の元へお帰ししたい一心だ。それを“仕事だから”と言われたら全くそうなのだが、その距離感に救われる。

泣かせにきてるドラマと分かっていても結局思ってた以上に泣かされてしまう。誰かが亡くなるのはやっぱり悲しい。それが知ってる人だろうと知らない他人だろうとやっぱり悲しい。だから泣けばいい。大切な誰かに会えなくなるのはこんなに辛いことなんだと自分に置き換えて。皆、誰かの大切な人なんだから、とそう思いながら思いっきり泣く。そんなドラマです。


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