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石を読む

TBSの『情熱大陸』とかNHKの『プロフェッショナル』、有名人や芸能人の方が取り上げられる場合もあるが、私が好きなのはそうじゃない、一般の専門家の方々の回。私たちの知らないところで様々な方が、様々な技術で、様々な困難に立ち向かっている。直接に、あるいは間接的に私たちの日常に何かしら関わっていることばかり、ゆえに見ていると関心、感動、感謝が生まれる。



ひと月ほど前の『情熱大陸』の主役は、石積みの職人さんだった。現在の滋賀県に戦国時代から住んでいた石工、“穴太衆(あのうしゅう)”と呼ばれた職人集団の末裔・粟田さん。

戦国時代に名を馳せた伝説の石積み職人「穴太衆」。自然にある石をそのまま積み上げ、石垣を作る。彼らがつくる石垣は非常に堅牢だと評判になり、織田信長が安土城の築城時に穴太衆を召し抱えるなど、全国の城づくりに大きな影響を与えたとされています。ただ無秩序に積まれているように見えて、比重のかけ方や大小の石の組み合わせに秘伝の技が潜んでおり、地震にはめっぽう強く、豪雨に備えて排水をよくする工夫も備わっている。(さんち〜工芸と探訪 より)

石垣で思い出されるのは、地震で熊本城の石垣が崩れてしまったニュース。その修復には粟田さんも携わっている。戦国時代には信長にも認められ、実証の結果コンクリートよりも強い、こんなにものすごい石垣を作る技術があっても現代ではあまり需要がない。崩れた石垣の修復が今の主な仕事だそうだ。そのせいか、今やこの石積みの技術を受け継ぐのは、この粟田家、粟田さんだけになった。


何がすごいって、コンクリートブロックのように同じ形のものを積むのではなく、自然の石を使用するので当然石と石がピッタリ噛み合うはずがない。大きな石と石の間に、別の小さい石をかまして(隙間を埋めて)ガッチリと強度の強い石垣を積むのだ。石垣のデザインを考え必要と思われる石を何百、何千と用意して積んでいく。その隙間に合うのがその何百、何千の石の中のどれか、見ただけで分かるそうだ。

「石を読む」

粟田さんはこう言った。粟田さんのお爺様は石を読む名人で、石垣を積み終えた時点で用意した石はほとんど残すことがなかったそうだ。まるでジグソーパズルみたいだ。

実物を見たくなった。そんな風に細かく隙間が埋まってる石垣というのがどうしても見たい。ラッキーなことに、私の住んでいるところからさほど遠くないところに、粟田さんが携わった石垣があることが分かった。観光地でも何でもないところへ石垣だけを見に行くなんて、何だかとても高尚な感じがして私のミーハー心が騒ぐ。


大石と大石の間を埋め尽くしている、小さな石たち。見事にハマっている。まさにジグソーパズルだ。今まで石垣をじっくり見たことはないが、多分こんな石垣見たことない。見たら絶対心に残ったはず。私の高尚でミーハーな心は大満足した。

さて、粟田さんの現在のもう一つの大事な仕事は次の世代に技術を継承すること。もはや穴太衆の技術を受け継いでいるのは粟田さん一人だけだ。ここでこの技術を絶えさせるわけにはいかない。粟田さんには中学生の息子さんがいらっしゃる。先祖からの技術を受け継ぐ職人としては、息子さんに後を継いで欲しいという気持ちは勿論あるだろう。しかし父親としては、サッカーに打ち込む息子さんの、サッカー選手になりたいという夢を応援したい。今日もまた、息子さんの試合の応援に車で駆けつける。

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