アツい想いが詰め込まれてたブ厚い本〜『リバー』読書感想文
今手元にある本(ハードカバー)の厚みが何センチくらいか分かりますか?本の厚みが何センチか、気にしたことありますか?例えば、ある本は厚みが1.5センチ、これで大体250ページ。少し短めの小説かな、って感じでしょうか。
さて、今回読んだ『リバー』の厚みは半端ない。表紙の厚みまで入れると4センチ、中のページだけでも3.5センチ、これで648ページ。数字だけ聞くとそんなもんかって思うかも知れませんが、実際にものさしで4センチという長さを確認したら多分その厚みにビックリすると思う。本屋さんや図書館の棚に他の本と並んで立てられてたら、その厚みを見ただけで読む気を失くしてしまう、4センチっていうのはそれくらいなイメージです。
『リバー』/奥田 英朗
その、読むのを躊躇しちゃうくらいの厚い本作ですが、内容も熱いんです。あ、上手いこと言っちゃった。
連続して殺人事件が起きて、それが10年前の未解決連続殺人事件の手口に似ていて、10年前に事件に関わった人たち、捜査した刑事や被害者家族や当時の容疑者や、それぞれの想いを描く警察小説。こう言っちゃなんですが、よくある設定。だけど、刑事ものが大体同じ設定になるのは仕方ないのです。事件が起きて犯人がいて、捜査の経過や背景が描かれて、逮捕へ。それを、飽きさせずに読者を惹きつける個性が必要です。
小説のタイトルになっているリバーは、渡良瀬川。群馬県と栃木県を跨ぐ川です。森高千里さんのあの名曲を思い出しますが、本作に出てくる渡良瀬川は犯罪の匂いを纏っています。下草がボウボウに生えててそれが目隠しになってたり、雨上がりなんかは足元がぬかるんでなんか嫌だし、ちょっと草に触れると虫がわぁーっと出てきて「うわぁっ」ってなったり。読んでいて川面を吹く風の爽やかさや木々や草の緑の新鮮さは全く感じられない、ただただ川べりの不快感。それがそのまま作品の不快感でもあります。
群馬と栃木の2つの県でそれぞれ事件が起きるので、当然関わる人々も群馬側の人と栃木側の人、各県警と所轄の刑事たち、各県の関係者たち、‥複数の事件と容疑者が登場するので関係図を書きながら読みました。何より、太田市はどっちの県?桐生?足利?そのあたりが土地勘のない私には区別がつかなくて(ごめんなさい)それだけでも関係図は必要でした。と言っても、途中からはどっちがどっちでも気にならなくなりましたが。
さて、このある意味既視感しかない本作と他の作品との差異、それは“執念”です。10年前に犯人を逮捕出来なかった元警察官、10年前に娘を殺された父親、10年前に釈放された容疑者、そして現在捜査にあたる両県の警察官、新聞記者。登場人物全員がそれぞれの立場で目的達成のために執念を燃やす。特に元警察官と、被害者の父親の執念『64』でいうと電話帳の上から順番に電話をかけ続けて犯人の声を見つけた、みたいなあれくらいな執念。
わりと序盤に「こいつが犯人か?」って思える人物が登場して、ドラマでいうといきなり忍成修吾さんが登場するみたいな。その人が犯人だと示す状況証拠も次々と出てきて、やっぱりねって思ってたら「あれ?」ってなったり。他の怪しい人たちに関してもそれぞれ怪しさを示す証言が出てきたり。なかなか一筋縄ではいかない。そりゃそうですよ、4センチも厚さがあるんですから、ミスリードや伏線や揺さぶり、いろいろ仕掛けてありました。容疑者の恋人や、心理学者やラーメン店の店主など、脇にも魅力的な登場人物多数。意外にも“悪いヤツ”というのは一人だけで、まあこれが胸糞悪いくらいな嫌な野郎でしたね。犯人の動機とか真相とか、そのあたりはそこまではっきり描かれてなくて、この作品の肝は犯人が誰かということよりも、真実を追いかける人たちの物語だったと納得しました。
読後感が悪くなかったのは登場人物たちそれぞれの考えや想いがどれも間違っていなかったということ。“刑事の勘”とか“子を思う親の気持ち”とか“警察の威信”とか、それぞれの視線で語られる想い、『念』みたいなものが重なり合って最終的に事件が解決に向かう感じはとても映像的だと思いました。映画化、あるかもなって。
分厚さといい、内容といい、読み応えあり。ただ、ちょっと重い(物理的に)です。