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非会計士による初めての監査対応奮闘記
上場を目指すスタートアップで管理本部や経理チームに配属されると、どこかのタイミングで、必ず監査法人とコミュニケーションを取らなければならなくなる。世の中には監査法人勤務を経てスタートアップで働く方々もいるが、非会計士の管理本部メンバーや経理メンバーが監査法人と直接やり取りするケースも多い。かくいう私もそのパターンだ。
この「監査法人対応」、経験があればスムーズにやり取りできるが、初めての対応だと、専門用語が沢山出てくる上に業務量も多く、要求水準も分からずどうすればいいんだ!となりがちだろう。いったい自分は何を聞かれているんだ?と感じることも多いと思う。
本記事では、非会計士である私が、実際に上場準備スタートアップで監査法人対応をするにあたり、必要な知識をどうキャッチアップしたか、どう監査法人対応のオペレーションを整えていったかというプチエピソードを2つ共有する。ぜひご笑覧いただきたい。
なお本記事は、ゆる会計アドベントカレンダー2024のDay10記事である。
①J-SOXの洗礼
私が最初に監査法人とコミュニケーションをする機会を得たのは、財務諸表側ではなく、内部統制側だった。入社最初の仕事の1つが、内部統制領域の業務を全てカバーすること。実質的には、明らかにIPOスケジュールを鑑みると間に合ってない中途半端なJ-SOX3点セットを爆速で一から作り直す業務だった。
J-SOX?キー・コントロール?何それおいしいの?状態だった私は、その仕事の話を聞いた直後にAmazonで『IPO・内部統制の基礎と実務』を買い、人生最速ではないか?くらいの速度で全ページを読破し、よく分からない概念をGoogleで全て補完した。いつの時代も頼れるのは専門書とインターネットだ。
なるほどJ-SOX3点セットというのは、リスク・コントロール・マトリクスなるExcelを作り、連動する業務フローチャートを作り、キー・コントロールを定義するのだな。キー・コントロールの設計次第で現場の負荷が全く変わるから、現場解像度を高めるために社内システムのフローや受注~請求~売上計上の実務を全てざっと理解せねばダメだな。この3点セットやらのExcelは作業コストが高いから、J-SOX3点セット作成ツールでやった方がラクだな。またIT統制というやつは、とても面倒そうなので、IT統制の対象ツールをなるべく減らした方がいいのだな、といった今思えば当たり前の事実をわずか1〜2週間程度で書籍とネットから独学インストールするしかなく、持ち前の想像力と社内ヒアリング力、そして監査法人が口にする聞いたことの無い単語や概念を爆速で当日中に調べあげるリサーチ力で資料を仕上げ、その上で監査法人と議論をし、無事1-2ヶ月程度でJ-SOX3点セット作成を乗り切った。
それから整備状況評価(ウォークスルー)をやり、運用状況評価(TOC)をやり(この単語も知らなかったが)、監査手続きというのが全件チェックではなく統計的ランダムサンプリングの手法を用いてなされると理解し、逆に監査とは100%の正確性を保証するものでは元々ないという事実も初めてこのとき理解した。この理解には後々随分と助けられたように思う。
②証憑探しの悪夢
私が担当した監査手続きの中で、売上関連証憑の提出にかかる工数が著しく多い、という事実にすぐ気がついた。契約書は社内にあってもスキャン率が100%ではなく、またスキャンされた契約書はGoogleDriveにリネーム保管されていても契約管理台帳としては整理されておらず、また売上に紐づく案件データ側から該当する契約書へのリンクも無いような状態だった。したがって、職人技とも言えるGoogle Drive検索テクニックとキャビネット目視チェック術を身に着け、膨大な数の契約書から該当する証憑を見つけ出す必要があった。今も昔も、私の契約書探しスキルのピークはここだと思う。
これでは契約書探しだけで1週間も2週間もかかり、とても監査対応が間に合わない。そこで2週間ほどかけ数名体制で、数千件はあろうかという契約書PDFを全て目視チェックし、足りない契約書はスキャンし、その時点で生きている契約を概ね全てスプレッドシートで台帳化し、社名だけで売上証憑を発見できる台帳を作成した。主要上位取引先はどのみち監査依頼が来ると分かったので、これも事前にデータをまとめるようにした。これにより証憑依頼受領後の売上関連証憑の検索時間が9割近く削減され、大幅な監査対応時間の削減に成功した。監査対応は経理実務も当然大事だが、裏側のオペレーション設計も相当重要だなと痛感した。今思えば、見事な経理DXだった。
エピソードを挙げればキリがないが、2000字縛りなのでここまで。非会計士かつ未経験でも、監査対応は始められる。臆せず勉強しながらやっていこう。