会社員をやめて何年経ったろう。あの頃、僕は、毎日ワイシャツを着ていた。
アイロンがけ。嫌いな人もいるかもだが、僕は不思議と、苦にならなかった。というよりむしろ楽しんでいた。アイロンがけを待っていた。
5枚溜まったワイシャツを、土曜にまとめて洗いあげ、干す直前にかけるアイロン。アイロンから始まる週末、リズムが身体に刻まれていた。
気が進まない他の家事、ただアイロンだけは腰も上がる。その頃、理由はわからなかったし、考えようともしなかった。最近たまにワイシャツを着る。アイロンもかける、同じように、あの頃と。今なら理由はわかる気がする。
会社をやって10年ちょい、まったくうまくなっていない、日々変わる状況、対応に四苦八苦、あーしておけばよかった、こーしておくべきだった、と1日に何回思うことか。
洗濯機から取り出したワイシャツは、当然シワシワで、バスタオルや子どものズボンと絡み合っている。それらをほどき、バスタオルは乾燥機に、子ども服はハンガーにかける。シワシワなワイシャツ。電源を入れておいたアイロン。
昔の記憶がある。母からアイロンがけの順番を教えてもらった。「小さいところからかけるのよ」今でもあの教えを守っている。襟、袖、腕の順でかけていき、胸、背中で一枚が仕上がる。
洗濯直後なので、霧吹きで湿らせる必要もない。1枚5分程度だろうか。いつも右手にあるスマホは当然ない。伸びていく。さっきまでのシワシワがなくなっていく。形状記憶のシャツならアイロンは不要だよ。うるさい黙っておれ。シワが伸びる様子を見たいのだ。洗濯機から出て乾かしてシワがなくなっては困るのだ。
今とは立場は違えど、あの頃も会社員としての営業活動はあーすればよかった、こーしておけばよかったの連続だった。今とほとんど変わりない。どっちもそれぞれ大変だ。散らかって片付かない日々に、シワが伸びる数十分は、必要だったどうしても。
ということで聞いてください。Creepy Nutsで「Bling-Bang-Bang-Born(ブリンバンバンボン)」
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