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読書感想「きみの世界に、青が鳴る」

私の物語はどうしようもなく、彼に出会ったときから始まった。私が大切なひとつを、捨てないまま階段を上る物語は。彼と出会ったときから始まり、今もまだ続いている。(本文257頁より)

 ついに完結してしまいました。

 2014年発売の「いなくなれ、群青」から始まった階段島シリーズの最新作であり完結巻、河野裕さんの「きみの世界に、青が鳴る」です。

 昨日の記事を読んだ人なら知っているかと思いますが、自分はここ五年間で出会った小説の中で、このシリーズが一番好きでした。発売が待ち遠しく、出て、読み終わるたびに次を心待ちにしていました。

 けれども、そんな気持ちとも今回でさよならです。この「さよなら」も、一〇〇万回生きた猫に言わせてみれば、きちんと寂しい方が良いのかもしれませんね。あの言葉は、作者から読者に対するメッセージだったのかもしれません。

 このシリーズは、読後さまざまな感情が沸き起こって、無性に誰かに話したくなります。きっと、好きな物語、好きな小説(小説に限りませんが)に出会った時、人は誰かとそれを共有したくなるものだと思います。

 でも、にも関わらず、胸の内に留めておいてそっと大事にしておきたい感情が、このシリーズにはありました。むしろ、この行き場のない繊細さこそが、「いなくなれ、群青」をはじめとする階段島シリーズの神髄のようにも感じます。

 何かを選び、何かを捨てることで自分たちは成長する。その二つが共存する世界はあまりに難しくて、だからこそ、選んだ方も、捨てた方も、両方が等しく悲しみを抱いている。だからこそ、共に美しい。そんな気がしました。

 きっと自分は、この先色々な小説を読み、物語を考えながら、ふとした時に、このシリーズの存在を思い出すはずです。七草の言葉をかりるなら、このシリーズこそが、私にとってのピストルスターになっていたのかもしれません。

 何はともあれ、完結、おめでとうございます。

 そして、ありがとうございました。

 また河野裕さんの新しい物語に巡り会うことができる日が楽しみです。

 

 それでは、またいつか。

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