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免許合宿に行くと、人が車を運転するという現代社会の狂気に怯える。

要約

  • 免許合宿に行った

  • 安全運転のコツのほとんどは「注意する」で済んでしまう現実に気づいた

  • 数値で比較しても交通事故の危険性が段違いだった

  • 人に運転させる現代社会、ヤバすぎ


1.免許合宿に行ったきっかけ

5年間務めた会社を退職し、4月に愛知から東京の実家へ引っ越しました。6月から転職先での勤務が始まるのですが、その都合で4~5月は無職のアラサーという字面だけ見れば地獄のような状態になりました。ともかく、2か月くらい仕事のない大人の春休み期間がやってきたのですが、超インドア派な私はとにかく時間を持て余しました。

免許ナシで愛知の郊外に5年間住んでいても、かなり充実した生活を送れました。正直、転職がなかったらこのまま住んでいたかったくらいです。それでも、大きなお店は基本的に駅から遠い国道沿いに並んでいたり、移動が公共交通に依存しているせいで北に行きたいのに東北東に行ってから西北西に向かうすごい迂回経路をとらされたりと、不便に感じる場面もありました。

車はとにかくお金がかかるので持ちたい気持ちは一切ありませんが、交通手段として使えるかどうかの差は雲泥です。折角の長期休暇なのでいい機会だと思い、学生のときにできなかった免許合宿に行くことにしました。アラサーになってから行くのはレアケースなようで、だいたい半数の教官から「今回初めて免許を取得する感じですか?」と聞かれました。

その結果、タイトルにもあるように、人間に運転させる現代社会の狂気に怯えることになりました。

2.フェイルセーフもフールプルーフもない乗り物

車を運転するにあたって、その危険性は口酸っぱく言われます。

警視庁の「令和5年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」によれば、2023年に交通事故で亡くなったのは2,678人、負傷したのは365,595人です。毎日どこかで7~8人は亡くなり、1,000人がケガしています。事故を起こした際の罰は重く、刑事・行政・民事上での責任を負うことになります。ですから、事故を起こさないように運転するのが大切です。

しかし、その事故を防ぐ対策は、だいたい注意するということでまとめられます。これが恐ろしいのです。

5年間の社会人生活で、研究開発みたいなことをしていました。その過程で、工場に赴いて試験を実施することも多々ありました。そういった職場の経験がある方ならわかると思いますが、工場では過剰なまでに安全対策を施されます。

工場の中には、一つ間違えると死亡事故に直結するような機械が多数あります。例えば、回転体に巻きこまれたとか、プレス機に挟まれたとか。そういった事故が起きた原因は機械の動作不良によることもありますが、ほとんどは人間のうっかりによるもので占めます。機械が関わらなくとも、建物や設備の都合でケガしやすい状況が発生することもあります。ちょっとしたケガ程度から死亡事故に至るまで、その原因でよくあるケースは以下のようなものです。

  • 異物が運転中の機械に挟まっているのが見えた。可動部に触れないなら大丈夫だと思って、停止せずにそのまま手を突っ込んだところ、誤って機械に触れたor衣服が巻きこまれてケガをした。

  • 異常が発生したので機械を停止し、点検を実施していた。しかし、別の社員がそれに気づかず、人が立ち入っているにもかかわらず機械を再度動かしてしまい、点検していた従業員がケガをした。

  • 床が破損した、コード類が床を這っている、視界が良くないなど、躓きやすくかつ見落としやすい状況を認めた。作業している人にとっては日常茶飯事だったので対策をせずに放置した結果、不慣れな新人がそこで躓き、体を強打した。

これらは全て気をつければ起きなかったことですが、ご存知の通り人間はうっかりを起こす生き物です。常に注意を完璧に払える人は数えるほどしかいないでしょう。

そこで大事になるのが、フェイルセーフとフールプルーフの概念です。雑に説明すると、前者は正しくない行動をしても安全にする、後者はそもそも正しくない行動ができないようにすることです。一つ目の事例で書くなら、フェイルセーフの観点では「センサーを設置し、稼働部に手などの異物があれば強制的に動作を止める」、フールプルーフでは「そもそも稼働部に手が入れられないようにカバーか何かで覆う」といった対策がとれます。いずれにせよ、人間がミスをする前提です。

翻って、車の運転はどうでしょう。一部はこの概念に則った対策もあります。2021年11月から国産の新型車には自動ブレーキの搭載が義務となっています。これは、飛び出し等の追突を避けるフェイルセーフの考え方です。ほかにも、左折時の前には可能な限り左に寄る必要があります。これは、自転車やバイクを巻き込まないために幅寄せして侵入する余地を減らす、フールプルーフです。

しかし、それらはあくまで万が一の可能性を減らすだけであって、完璧な対策ではありません。自動ブレーキが正しく動作しても制動距離は短くできませんし、幅寄せするときに自転車等がいることを見落とすかもしれません。それでも対策があるぶんだけまだマシで、そういった一部を除いてしまうと運転に関する危険を避けるには注意してどうにかするものがほとんどのように思えます。

  • 右車線が渋滞している道で、車と車の間から歩行者が横断してくるかもしれないと思ったら、速度を落としていつでも止まれるようにする。

  • 右折待ち中に対向車のトラックが止まった。その横からバイクが速度を緩めずに直進するかもしれないと思ったら、速度を落としつつトラックの横を注視する。

機械にセンサーを導入する・カバーを付けるといった施策は、人間がうっかりしていてもその効力が発揮されます。翻ってこの運転のケースでは、人間がうっかりしてしまうと意味を成しません。「危険に対しては特に気を付ける」ということだけを対策としようものなら、工場では大顰蹙を買うでしょう。ですが、車の運転においてはそれが平然とまかり通ります。

さらに、車の運転は基本的に一人作業です。同乗者がいたところで、話し相手にはなれてもサポートするのは困難です。運転手がパニックになったり急病を患って運転ができない状況になっても、直ちに変わることはできません。一瞬の判断の誤りが事故に直結する状況下で、これは致命的です。

車を運転することの危険性は、数値にも表れています。労災と交通事故による死者数と負傷者数を比べれば、交通事故のほうが3~4倍ほど多いことがわかります。割合で比較するのは難しいですが、労働者数は2019年で6,724万人、運転する人数はざっくり計算すると平日では一日当たり7,399万人・休日では6,423万人(※1)と大差ないので、母数を考慮しても交通事故のほうが多いと言えるでしょう。

参照元
交通事故……令和5年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について 表1-3
労災……令和5年の労働災害発生状況

車を初めて運転して感じたのは、想像よりはるかに死角が多いことと、その死角がとても怖いことです。混雑した道や住宅街で車を走らせると、子どもや自転車の飛び出しが怖くて仕方ありません。注意すれば避けられるものだとしても、うっかりはあります。また、技術が追い付かないケースもあります。路上教習中、障害物もない片側一車線にもかかわらず対向車がセンターラインを大きく割って自車に近づくような危険な場面もありましたし。

車の運転は大きな危険が孕んでいるにもかかわらず、その対策が十分にとれないまま主な交通手段の一つとして機能し続けている現代社会は、狂気としか表現できません。

そんな現実に気づきつつあった私は、早く自動運転車が普及してほしいと願うようになりました。車という乗り物は、人間が運転するには身に余ります。車にはリスクを上回るリターンがあることも、自動運転車の実現には大きな障害があることは承知していますが、このまま人に運転しつづけるのは現実的ではないように思えます。

※1補足:運転する人はざっくり計算すると平日では一日当たり7,399万人・休日では6,423万人

令和3年度の全国道路・街路交通情勢 調査 自動車起終点調査(国土交通省道路局)内の『3 時間帯別発生交通量(車種別、平休別)』を見ると、平日の総トリップ数は112,383,295、休日は84,006,415。手引きによれば「本調査は、調査実施年の秋季(9月~11月頃)のうち、指定する平日、休日各1日 を調査対象日としています」とのことなので、これは1日当たりの値。

速報版を見ると、トリップ数/人・日の値は平日で1.96、休日で1.47。したがって、

平日:112,383,295[トリップ/日]÷1.96[トリップ数/人・日]≒7,399[万人]
休日:84,006,415[トリップ/日]÷1.47[トリップ数/人・日]≒6,423[万人]

蛇足.免許合宿の副産物

免許合宿を経ていいことが2つありました。本を3冊読破できたことと、ささみの筋とりが上手くなったことです。どういうことだよ。

その1.本3冊読破 ―免許合宿はインプット奴隷合宿に向いている―

普通車のATを取得しようとした結果、卒業までにかかった期間は14泊15日(内1日は終日おやすみ)でした。念のため、よく知らない人向けにモデルスケジュールを掲載します。

引用元:https://www.menkyo-school.jp/lesson/life/detail.html?ls=16

当然ながら、学科教習や技能教習はしっかり取り組む必要があります。ですが、それ以外の時間はほぼ全て自由時間です。加えて、私が通った教習所では学科教習がほとんどオンライン講座になっていたので、時間割通りにやる必要はなく、スマホからいつでも受講できました。

「オンライン講座だったら内職できるじゃん」と思う人もいるかもしれません。しかし、この教習所では受講態度がランダムに撮影される仕様がありました。職員のかたはそれを基にちゃんと受講したかを判定したので、内職をして画面外に消えるともう一度クソつまらない学科教習を受講させられる恐れがありました。

ただ、これは見ようによってはメリットです。拘束力があるということは、

  • 宿舎の中で、

  • WiFiが完備されていて、

  • YouTubeを見まくれるし、

  • 布団でゴロゴロできる

こんな環境にいたとしても、オンライン講座に向き合わざるを得ません。逆に、教習所内は人の目がありますから、だらしない姿も晒せません。

つまり、こういうスキームが出来上がります。

  • 宿舎
    誘惑が多く、読書や勉強の気が散りやすいので、この時間に学科教習をやる。

  • 教習所
    誘惑が少ないので、読書や勉強をする。

免許を取るための合宿なのですが、読書や勉強がしやすいという副作用があるわけです。結果、在学中に本を3冊読破できましたし、参考書も1冊の半分を消化できました。そう考えると、免許合宿はインプット奴隷合宿(※2)にも向いているなと感じました。ただ、それは勉強の意識がいくらか高まったアラサーの自分だからそう思っただけのように感じました。意識が極めて低い大学生時代の私が免許合宿に行けば、間違いなくスマホを触りまくるだけで一日が終わるでしょう。そう考えると、むしろ今行けたのが幸運かな、と思いました。

※2補足:インプット奴隷合宿とは
ゆる言語学ラジオで提唱された概念。旅行はするのだが、観光よりも読書を優先すること。というか、読書しかしないくらいの勢いのこと。


その2.ささみの筋とり ―学生メシみたいな宿舎メシ―

いくら料理が趣味な私とはいえど、免許合宿をしながら十分な料理ができるかが未知数だったので、3食全て提供されるプランにしました。ただ、その食事の内容に問題がありました。味はおいしいのですが、偏りがあったのです。献立の一部を紹介します。

というわけで、ご覧の通り炭水化物祭りなのです。揚げ物も1日に1回は出るくらいの頻度で出てきたので脂質も多めで、肉や魚や大豆が少ないのでタンパク質が少なく、加えてフルーツは2週間で3~4回しか出ないのでビタミン不足です。野菜だけは十分な量があったのですが、それ以外は典型的な学生メシのような献立でした。ネガキャンすぎるので念押しでもう一度書きますが、味はおいしかったです。

しかし、いくら美味しいと言えど、栄養が頭にチラついて仕方ありません。幸い、宿舎から歩いていける距離にスーパーがあったので、そこから何かを調達する必要があります。2日目の夜にはスーパーに向かう決心を固めました。

スーパーの中を見ていると、たまたま鶏のささみが安売りしていました。さらに、宿舎には電子レンジがありました。約5年の自炊生活を経た私は、ここで直感します。レンチンで調理ができる!!というわけで、調味料とタッパーを買って、レンチン調理の環境を整えました。

最初は色々なレシピを試したのですが、レンジ以外の調理器具が一切ないような状態だったので、材料一種だけでシンプルに加熱するだけの調理しかできませんでした。なので、途中からささみの筋とりの練習を兼ねて、ささみのサラダチキンを作りまくっていました。筋とりが面倒で忌避していたので、練習ができてよかったです。

そんなわけで、免許合宿に行けばささみの筋とりが上手くなれます。そんなことする人がいるかはさておいて。

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