PS.ありがとう 第13話
美羽の反抗にさらに会場が笑いに包まれる。会場から、“謝れー”と言う声と同時に、“やるね、みうちゃん”という声も聞こえてくる。しまいには「美羽、美羽、美羽」という声援まで起きてしまった。
「どうですか?この気分は?」
女性MCが気を使ったのか美羽にマイクを向けた。
「あんたのちょめちょめ見てみたい」
更に会場が爆発した。
帰宅して子供たちをふろに入れて食事をした。子供たちは疲れていたようでいつもより早く静かになった。子供たちの寝息だけが寝室の空気を揺らしている。美羽が腕を伸ばして寝入っている。
呼吸に合わせて上下する掛け布団が心を和ませる。ずっと見ていたいと思える光景だ。
子供たちが寝静まってからが瑤子の時間だ。瑤子はリビングのテーブルでパソコンを立ち上げ、いつも見る不動産サイトを立ち上げた。
体中に疲労が張り付いている。気持ちも衰弱している。少しでも気を抜くとこのまま空気に吸い込まれてしまうだろう。だが、寝る気にはならない。
どうしても東京行きが頭をもたげる。そろそろ結論を出さなければ間に合わなくなるかもしれない。
抽選会では奇跡的に電子レンジを手に入れることができた。美智子さんが当てた電子レンジを自分が当てた自転車と交換してくれたからだ。双方のメリットが合致した。
東京に行けないのなら高い電子レンジでも買って、空白の気持ちの埋め合わせをしようと思っていた。東京行きとの交換条件だ。電子レンジが手に入った時点で東京行きを諦める、そう思っていた、ついさっきまで。今は違う、せっかく手に入れた電子レンジだ、東京まで同行願おうと思っている。新生活を始める自分への手土産だ。
祐輔に承諾を得たわけでもないのに心の中は東京に行けた気でいる。
ノートパソコンのモニターの上から視線を伸ばす。出窓の棚に書物が数冊積み上げられている。電子レンジのカタログが見えた。瑤子は立ち上がり窓際まで行くと、積み重なっていた雑誌とカタログを両手で抱え上げてテーブルに広げた。
カタログの表紙でスタイリッシュな電子レンジが自分の姿を主張している。カタログと雑誌の間から便せんがすべるように出てきた。手に取る。
便せんを見て少し優しい気持ちになった。
「今度は誰に手紙を出そうか」
便せんは封筒とセットになっていて、薄いビニール袋に入れたままだ。
“不思議と願いが叶う便せん。あなたの感謝を誰かに送ってみよう。きっとあなたの夢が現実になるでしょう”
「願いが叶う便せんかあ、いいね」
便せんを手に取って眺める。便せんの下から“マイスタイル”という雑誌が顔を出した。
雑誌には不動産や洋服、仕事など、人生には欠かせない情報が詰め込まれている。