PS.ありがとう 第21話
祐輔が風呂に入るというので、先に寝室で待つことにした。久しぶりにセックスをするとなると、少し気持ちが高ぶった。心臓が高鳴るのがわかる。初めて男性とベッドを共にした時の気持ちに戻った気がした。瑤子は体が熱くなるのを感じた。思わず手が体のあらゆるところに触れていた。そんなことをしているうちに風呂上がりの祐輔が隣のベッドに入ったのがわかった。すっかり準備は整っていた。
すかさず瑤子が祐輔の横に滑り込む。
「わあ、びっくりするじゃん、起きてたの?」
祐輔が驚いて大きな声を出した。
「うん」
そう言って瑤子は祐輔の後ろから抱き着き、股間に手を伸ばした。そして思い切り祐輔の背中に胸を押し当てた。じわっと男性の背中を感じる。暗闇の中でこの場所だけがくっきりと切り取られた感覚になる。
自分たちだけの世界、これから何回経験できるのだろう。そう多くはないことは確かな気がする。訪れたチャンスを堪能しておくべきだ。
「たまにはいいでしょ?」
思い切り甘えた声で誘ってみた。十分に熱を持った体を処理するには、ここを押し切るしかない。
「あーだめだ、瑤子、最近疲れてるから、眠いんよ、今度たっぷりするからな、今日のところは許してくれ」
さっきまで他の女といたくせに、よく言うわ。瑤子は祐輔の冗談みたいに断るところもむかついた。思い切りお尻を叩くとすぐに自分の布団に戻った。
「いてー、おい憎しみがこもってるぞ」
「知ーらない、自分の胸に手を当てて考えてみて」
「何を言ってるのかよくわからんけど、まあいいや、今日は寝る」
本当に眠かったのか、祐輔はすぐに寝息を立て始めた。何事もないようにすやすや眠っている祐輔を見ると余計に腹が立ってきた。絶対に東京に行ってやる、瑤子は固く誓った。
手紙の効果はすぐに出た。美羽が美里ちゃんがくれたと言ってディズニーランドの招待券を持って帰った。封筒には手紙が入っていた。
“これ、たまたま主人が会社でもらったんだけどうち、この期間夏休みで実家に帰ってるから行けそうになくて。良かったらもらってください。”
確認すると8月1日から8月10日までの期間が印字されていた。この期間ならうちはいけるだろう。
美羽だけじゃなくて晴香ももらいものをしていた。
「優里ちゃんのお母さんがママに渡してって」
開封すると欲しかったしわ取りクリームが入っていた。手紙にはこう書いてあった。
“この前は自転車と交換してくれてありがとう。このクリームな、申し込んだら2つセットやったから1つ使ってくれる。私はもう一個のエクストラタイプじゃないと効果ないみたいやから、そっち申し込もうと思ってるんよ。だからお試しは一つで十分やわ。瑤子さんならもともときれいやからこれでいけると思うけど、使わんなら他の人にあげてもいいからね”
よっしゃ、瑤子は思わずガッツポーズをした。しわ取りクリームにではない、手紙の効果にだ。手紙の効果を実証できたことの方がうれしかった。やっぱりあの便せんは本物だ。
こっちの世界とあっちの世界がつながった気がした。偶然でも不思議なことは都合のいいように考えてしまう。
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